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2020/06/01

超人の面白読書 149 パウロ・ジョルダーノ著『コロナの時代の僕ら』2

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日本国は5月14日に非常事態宣言解除を東京など一部の都市を除いて実施した。しかし、油断は禁物で現に愛媛県では一旦解除されたものの集団感染が発生している。第二波の到来だ。それは韓国のソウル、中国の武漢そして吉林省でも同じで、新型ウイルス感染の怖さを露呈した形だ。さて、前回のジョルダーノの『コロナの時代の僕ら』の続き。その前にイタリアの現状をネットで一瞥してみよう。3万人以上の死者を出したイタリアでは、外出や営業が解除されて日常生活が戻りつつあるようだ。何せ一時はどうなるかと世界中が固唾を飲んで見守っていた国だからその後の状況も心配だ。コロナ禍只中で書かれたジョルダーノの『コロナの時代の僕ら』は、いわば ある時点(2月下旬~3月上旬・下旬)でのイタリアコロナ報告書だ。現状報告だから書かれている新型コロナ感染者の数字は刻々変わる。それは訳者が括弧で追記していることでわかる。この若い作家は、物理学者で数学が得意しかも文学賞受賞歴もある文才の持ち主でもある。

【目次】地に足をつけたままで おたくの午後 感染症の数学 アールノート このまともじゃない非線形の世界で 流行を止める 最善を望む 流行を本当に止める 慎重さの数学 手足口病 隔離生活のジレンマ 運命論への反論 もう一度、運命論への反論 誰もひとつの島ではない 飛 ぶ カオス 市場にて スーパーマーケットにて 引っ越し あまりにたやすい予言 パラドックス 寄生細菌 専門家 外国のグローバル企業 万里の長城 パン神 日々数える 著者あとがき 「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」 訳者あとがき

著者あとがきを加えると101頁の短いエッセイ27編を集めて編んだものだが、散りばめられている言葉を繋ぐと宝石のごとく輝くと、訳者はあとがきで書いている。それは少し大袈裟だと思うが、確かにこの本には科学者の眼を持ったメッセージが込められている。それでは散りばめられている言葉を本文から拾ってみよう。

今回の新型ウイルス流行を背景に生まれるある種の考察は、そのころになっていても(新型コロナウイルスが終息した後)まだ有効だろうから、なぜなら今起こっていることは偶発事故でもなければ、単なる災いでもないからだ。それにこれは少しも新しいことじゃない。過去にもあったし、これからも起きるだろうことなのだ(地に足をつけたままで)。

SARS-CoV・2は今回の新型ウイルスの名前で、COVID-19は病名、つまり感染症の名前だ。〈中略〉感受性人口、ウイルスが感染させることができる人々、感染人口、すでに感染した感染者たち、隔離人口、ウイルスに感染させることができない人々の3つに分類でき、感受性人口(Susceptibles)、感染人口(Infectious)、隔離人口(Removed)の頭文字を並べたのが、SIRだ(感染症の数学)。(一部書き換えて引用―筆者)

仮に僕たちが75億個のビリヤードの球だったとしよう。僕らは感受性保持者で、今は静止している。ところがそこへいきなり、感染した球がひとつ猛スピードで突っこんでくる。この感染した球こそ、いわゆるゼロ号患者だ(訳注/未感染の集団に病気を最初に持ち込む患者)。ゼロ記号患者はふたつの球にぶつかってから動きを止める。弾かれた球は、それぞれがまたふたつの球にぶつかる。次に弾かれた球のどちらもふたつの球にぶつかり……あとはこのパターンが延々と繰り返される。感染症の流行はこうして始まる。一種の連鎖反応だ。その初期段階には、数学者が指数関数と呼ぶかたちで感染者数の増加が起きる。あらゆる感染症の秘められた核心とも呼ぶべきこの数字は基本再生産数と呼ばれ、R0という記号で示される。記号の読み方は「アールノート」で、どんな病気にも必ずR0がある。ビリヤードの球の例だと、R0は2にぴったりで、各感染者が平均ふたりの感受性保持者を感染させる、ということを示している。今回のCOVID-19の場合、R0は、2.5ぐらいではないかと言われている(WHOは2020年3月の時点でCOVID-19のR0を2.0~2.5のあいだと見込んでいる)。〈中略〉ひとりの感染者から伝染する人数が1未満でなければ状況はけっして楽観できないという事実のほうだ。R0が1未満であれば、伝播は自ら止まり、病気は一時の騒ぎで終息する。逆にR0がほんの少しでも1より大きければ、それは流行の始まりを意味している(アールノート)。

「市場にて」では新型コロナウイル発生源について中国の武漢のことに言及している。そして、「スーパーマーケットにて」で次のように書く。

ミラノ在住の著者の友人の日本人の母と娘が買い物に行くと、何もかもお前らのせいだ、さっさと国に帰れと怒鳴られたという。しかも、中国に帰れ、と言われたようだ。医師である著者の父が、イタリア最初のエイズ患者の対応に戸惑った話を持ち出した後著者は、普段よりも少しひとに優しくしよう、慎重になろうとすることができるはずだ、スーパーの通路で他人にぶしつけな文句で罵ってはいけないということも覚えておこうと書く。いずれにせよ――どうしてもアジア人の顔を見分けることができぬ僕らイタリア人の困難さはさておき――今度の新型ウイルスの流行は、何もかも「お前らの」せいではない、どうしても犯人の名を挙げろと言うのならば、すべて僕たちのせいだ、と「みんなの責任」として受け止めようと優しく語る。
南イタリアのキシレラのオリーブの木が寄生細菌でやられた話、その後も「専門家」、「外国のグローバル企業」、「万里の長城」、「パン神」それに「日々を数える」と独自の考えを展開していく。そして、著者あとがきの〈僕は忘れたくない〉のレフレーンが効果的な「コロナウイルスが過ぎたあとも、僕が忘れたくないこと」で終わる。フランスの作家マルグリット・デュラスの言葉を引用しながら、新型コロナウイルスを戦争に例えられることへの違和感を示し、患者を助けよう、死者を悼み、弔おう、そして、まさかの事態に備えようと結ぶ。感染の拡大を数学的にわかりやすく解説しながら、今考えていることを素直に書き記している。

毎日新聞夕刊(2020年4月13日)特集ワイド欄「いま考えることを忘れまい 「コロナの時代の僕ら」出版へ イタリア人作家ジョルダーノさん 国ではなく全人類の問題 」を再読。その新聞記事はこちら↓

ジョルダーノのインタビュー記事 - 20200601152401.pdf

緊急出版の理由は、「感染が広がり混乱した人々を鎮めたかったのが一つ。もう一つは、疫病と地球環境の関係など、僕が考えたことを多くの人に伝え、今後も議論を続けてほしいと思ったからです」と。本書は読みやすい分すらすらと読み進んでしまいがちだが、ふと立ち止まって考える、そういう一冊である。ポストコロナ時代のヒントがここにはあるような気がする。著者は1982年生まれの38歳。イタリア北部トリノ出身。訳者の飯田涼介氏はイタリア在住。イタリアの地理を改めてチェック、そうこうしているうちに少し嬉しいニュースが入った。水の都ベネチアでコロナの感染拡大防止策で人々がホームステイしていたおかげで運河の水がきれいになり、魚が戻ってきた。コロナは良いことももたらすのだ。
急いで書き記そう。帯の写真で拝見した限りでの著者の風貌は、ガリレオ・ガリレイに似ていないか。もっとも著者は大分若いが。イタリア人は我々日本人には、いな、筆者には皆同じく見えてしまうのだ。(笑)

ああ、それにしてもだ、新型ウイルス感染で死亡した全世界の人々よ、安らかにお眠りください。数を数える酷さと国が数の大小を問題にしているこの現実、矛盾するなあ。人の死を決して無駄にしてはならないのだ。人の命の尊さと儚さを思う今日この頃である。

【追記】上記のコラムを書いて1週間くらい経過してからアメリカのニューヨークタイムズに異例の記事が出た。新型コロナウイルスで亡くなられた人たちを同紙が一面に文字のみで掲載したのだ(2020年5月24日付)。タイトルは、数え切れないほどの損失、およそ10万人のアメリカの死。氏名、年齢、出身地、一言添えてリスト化。墓碑銘。本当に胸が痛む。日本の新聞はこんなことができるだろうか。
https://search.yahoo.co.jp/amp/s/www.tampabay.com/news/nation-world/2020/05/23/the-new-york-times-dedicates-sunday-front-page-to-names-of-1000-coronavirus-victims/%3FoutputType%3Damp%26usqp%3Dmq331AQQKAGYAdHYqqDt4JTvG7ABIA%253D%253D


【PDF版】

The New York Times, May 24, 2020 - 20200601152435.pdf


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