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2020/02/01

超人の面白読書 145 雑誌『すばる』2020年2月号 北野道夫「予測A」を読む

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雑誌『すばる』2020年2月号の巻頭を飾った北野道夫の小説最新作を読む(P.11~P.67)


題名の「予測A」は、妄想を逞しくした結果のタイトルだろうか――。 それにしても好きですね、男女間、否、男女間とおぼしき人たちのプレイが。一歩間違えば、否、間違えなくポルノ小説、性愛小説、自慰小説だろう。自己愛小説か。ウーム、谷崎みたいにフェティシズムまでには至らない、少し抑止力が働いて醒めた感覚で自分の肉体や相手とのやり取りを捉えている。あらすじは単純そのもの(妻と子供二人のいるマンション住まいの30才後半にかかった会社員が、家のことや会社のこと、妻や子どもや会社の仲間を描く。拾って来たロボット掃除機が壊れ、直しに長野県にある会社を訪ねる……)だが(しかし、現実と夢の交差するような描写もあって、読んでいるうちに戸惑ったことも)、いろいろと仕掛けが施されていて、読者はその仕掛け(ロボット掃除機が大きな役割を果たしている。それはAIを駆使した現代の象徴的なモノ)に引きずられて非日常の不思議な空間に立ち会わせられる。何と言うことはない、少しアンニュイ感の漂う中年手前の人間のスリリングなチャレンジかも。異常な世界に誘惑されたい妄想が、仕掛けられた小道具自体を有機的に作動することによってある種の「予測」を引き立たせ、自分の実在感を曖昧にしたまま、異空間の居心地さを体験している。
夫婦間、職場での男女間そしてモノに感情移入しながら男女間の垣根を越えて、筆者的に言わせれば、溶けているようななまめかしい世界を演出している。ダリの絵のゆがんだやわらかい時計、それを白い精液で満たした感覚といったら良いだろうか。
セルフプレジャー、この言葉の何と新鮮なこと。作者は自慰行為に新たな意味を賦与した。それはかつての罪悪感的なイメージから解き放たれて軽いゲーム的な遊戯に異化し、むしろ行為自身を楽しんでいるような素振り書き振りである。私たちはこの「ネオ ポルノ ノベル」を歓迎すべきか今しばらく時間が必要かもしれない。夫婦間のあり方が変わって来ている気配、否、仮面夫婦的な様相の肥大化、それは現代の日常を切り取った一つのリアルさかもしれない。また、文章は読みやすく現代の若者言葉も多用されているが、傑作なのは、■■、★★、□□、チ●コといった人名が入りそうな言葉だったり、猥褻な言葉をすぐ想像つくことだったりと伏せ字効果を散りばめ面白可笑しくしていることだ。伏せ字にゲーム感覚的な要素を取り入れている。一つ忘れてならないことは、性別の交換可能な(願望)、いわば、男がオンナに、女がオトコになってその仕草特に性的な仕草を楽しんでいる。性倒錯とは古い概念で、むしろアニメ的な世界観の反映だろうか。男の象徴的なモノがオトコ化した女に弄ばれている。これは明らかに現代の性生活の乱用、悪戯、戯画化したとしか思えない。いやいや、やっと陽にあてられた感じなのか。現代的なフーゾクは、どっこい変容し続け、ゲーム的な進化を遂げているということなのか。誰でも抱いていて誰でも躊躇する世界を、「予測」しながら妄想を掻き立てて行く実験的な小説なのである。谷崎潤一郎、永井荷風、澁澤龍彦、渡辺淳一、アナイス・ニン、マルグリッド・デュラスなどに代表される性を扱う小説は性愛文学といわれ人間の根源的な事柄で、今までもタブーに挑戦した作家は結構いる。チマチマしていてミニマニズム風だがそういったジャンルの延長線上にある中編小説だ。

【追記】ある統計によれば、2、30年後の日本の社会は3人に1人が独身者と「予測」されている。快楽あるいは自己愛・自己欲求のために精液は大量に流される運命にあるのか。セルフプレジャーは健康に良いと見直す見方もあるが・・・。文學界新人賞受賞歴(芥川賞賞候補にも。その後しばらく鳴りを潜めていた様子)のあるこの作家は2、30年後にどのような作品を書いているのか「予測」がつきにくい。が、きっと通俗小説も書いているだろうが、筆者的には彼独特のオリジナルな領域を開拓してもらいたい。文学に何ができるかではなく、狭い文学領域にとどまらず文学を超えて書き続けてしてほしい。(2020.2.4 記)

【追記2】2020年2月4日の東京新聞「大波小波」欄に北野道夫の最新作「予測A」の短評が掲載されていた(名古屋の知人がショートメールで知らせてきた)。その記事を読むはこちら→


大波小波 - 20200206182708.pdf
少し飛躍しすぎ、深読みしすぎと思うが・・・。ジョージ・オーウェルの『1984』(テレスクリーン)の近未来小説を思わせる、千代田区千代田、改変、クロール➡コントロールねぇ・・・。それより素直に読んだ方がオモロイ、エロい。(2020.2.6 記)


【追記3】新たな書評記事を知り合いのYさんから教えてもらった。読売新聞2020年1月28日【文化欄】文芸月評。北野道夫氏は写真入り、しかも辻原登氏の脇に並んで。その書評を読むはこちら→


読売新聞書評2020年1月28日 - 20200213183506.pdf
(2020.2.13 記)

【追記4】小説関連記事。2020年年2月21日付毎日新聞夕刊特集「吉本ばななさんらを育てた名編集者 根本昌夫さん」の記事が面白い。インタビュー記事で、聞き手は毎日新聞記者の藤原章生氏。吉本ばなな、島田雅彦、石黒達昌、竹野雅人、野中柊、高山羽根子、木村友祐、嶋津輝、佐々木愛、湊ナオ、高橋陽子、高瀬隼子らのデビューに携わった名編集者で『海燕』や『野性時代』の文芸誌の編集長を経験した人。彼の小説教室が人気だという。小説を書くこととは恥しいこと、自分をさらけ出すこと、なりすますことだと。「僕は編集者だから、この人が本当は何を書きたいのかということはわかる方だと思います。すると、書いているものと書きたいものとの距離がわかり、それを埋める手伝いをしているんです。その人自身がどうすれば近づけるかということです」ここには名編集者の読み手としての確かさ、鋭敏 な感受力と眼力があるようだ。そして、「小説として読めるものが全体の5%、そのうちの5%が候補に残る。さらに、2000人の応募があるので最終候補は5人という勘定だ」という。文学賞にありつける確率は全人口の5%の5%の5%で、1万人に1人強と書く記者。才能と覚悟、文章修業の結実、良き文学アドバイザーを得て、 最後は運も味方につけることか。

その毎日新聞の記事を読むはこちら→

根本昌男夫毎日新聞夕刊特集ワイド - 20200224154718.pdf


(2020.2.22 記)

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