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2019/09/10

超人の面白読書 141 雑誌『世界』8月号の特集2 出版の未来構想 15

大原ケイ氏の「すべての本を、すべてのチャンネルで、すべてのアカウントに 挑戦し続けるアメリカの出版社」は、有名な出版人の訃報から書き始めて、アメリカの出版概略史、「ビッグ5」出版社の実態とその規模、再販制度と取次の特徴、出版社とってアマゾンとは、出版不況知らずのアメリカ、で終わる。ここで特徴的なのは、“インプリント”という出版形態だ。出版社が出版物を刊行する際に用いるブランド名。アメリカの出版社は合併や買収が盛んに行われ、どう繋がっているのか分かりづらいことも。特にここ20、30年で大分競争が激しくなって入れ替わりが大分あった印象を受ける。大原ケイ氏が掲げた表、「ビッグ5」の売上額(P.201)は107億ドル。

出版社 年間総売上額 コングロマリット(本拠地)
ペンギン・ランダムハウス 33億ドル ベルテルスマン(ドイツ)
アシェット 27億ドル レガルディエ(フランス)
サイモン&シュスター 18億ドル ヴァイアコム(アメリカ)
ハーパーコリンズ 15億ドル ニューズ・コーポレーション(アメリカ)
マクミラン 14億ドル ホルツブリンク(ドイツ)
7社 107億ドル 5社

これでいくと全米の総売上額262億3000万ドル(2017年、全米出版社協会発表)のうち「ビッグ5」の示す割合は41%になる。
日本とアメリカで大きく違うところに著者と出版社の関係がある。少し長いがわかりやすく書かれているので引用したい。
「もともとアメリカの出版社は著者から直接持ち込まれた原稿は受け付けず、目利きであるエージェントを介した作品でなければならないところがほとんどだ。本という形にする価値のあるコンテンツかどうかを判断する出版社のプロはしばしば「ゲートキーパー」と呼ばれる。狭き出版への門を守る門番だ。出版社を通して出される本は、刊行時に紙の本とEブックのフォーマットが同時に発売となり(最近はそこにオーディオブックが加わるようになってきた)、Eブックの値段は10ドルを切ることはない。その一方で、セルフ・パブリッシングによるEブックは数ドル~10ドル未満の値段がつけられることが多く、ISBNを持たないタイトルも多いため、一体どのぐらいの部数が買われ、いくらぐらいの市場規模になっており、どの著者がどのくらいの印税を稼いでいるのか、わかりづらくなっている。」
刊行した本の4冊に1冊しか黒字化できず、その1冊がベストセラーになり、大ブロックバスターと呼ばれる大ヒットにつながる。大原ケイ氏は、それがアンドレ・シフリンの『理想なき出版』(2002年、柏書房)の“書籍ビジネス”だというがまた、この翻訳本の原題“Business of Books”のタイトルの付け方に違和を唱えている。“アメリカの最近の書籍ビジネス”くらいにおさえておけば良かったはずなのに、意訳し過ぎた感は歪めない。

また、1994年に登場したオンライン書店アマゾンに不利な卸し条件をつきつけられたり、勝手な値段を付けられたりするのを防ぐには、それなりのサイズ、つまりタイトル数を揃えた大きな組織であれば、いいなりになって潰されることは起きにくいからだ。それがアメリカの出版社が巨大化し続けた理由だという。規模は違うが日本でも同じようなことが起きている。「すべての本を、すべてのチャンネルで、すべてのアカウントに」とは、あらゆる限りの方法で読者に本を届ける努力をするという意味だという。“What els is new?”(他に何か新しいのは?)と挨拶がわりに質問をぶつけてくるアメリカの編集者たち、オリジナル溢れる本の企画を考えていることは間違いない。それは「何か面白いものない?」と筆者たちが使っている言葉と同義語のような感じを受ける。

以上、雑誌『世界』(8月号)の特集2 出版の未来構想の読後感を少し時間をかけて述べた。日本は、マーケット縮小のなか新ツールで読書傾向が変貌、出版界は紙媒体の生き残り、電子本の更なる開発それに“マーケットイン”的な新たな出版流通を構築していかなければならない。特に取次の役割と書店の活性化、「活きた」知恵と絶えざる「生きた」努力が求められる。その意味でもドイツやアメリカの現状報告(イギリスやフランスの報告もほしかったが)は、大いに参考になるはずだ。
読書論、読者論それに書店論に言及できなかったが、別の機会に書いてみたい。みなさん、真摯に本と向き合っていて頭が下がる。本は決して生活必需品ではないが、心の糧を得るには必需品なのだ。

追記 返品枠付き「買い切り」方式 需給バランスみて適正配本 徳間書店・平野健一社長に聞く、というタイトルで出版界注目の記事が掲載された(毎日新聞2019年9月5日夕刊)。その記事を読むはこちら→

ダウンロード - 20190910161043.pdf

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