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2015/11/06

超人のジャーナリスト・アイ 158 スウェーデンの学校襲撃事件 続

下記は2015年10月23日に雑誌『New Yorker』に掲載されたスウェーデンで起きた学校襲撃事件の記事。筆者の試訳。

スウェーデンでの襲撃事件とアイディンティティーの危機

スウェーデンで起きた人種差別的な動機に根差した襲撃事件は、移民について理想の衝突をすでに経験している国を震撼させている。

「私たちは机に避難したわ。みんな怖がっていて泣き叫んでいたの」手を震わせている11才の女子生徒が木曜日にクラスメイトと犯人の後ろでどのように隠れていたかを記者に語ってくれた。犯人は変装していて長い時間閉じ込め二人を殺害し、数人を負傷させた。長時間閉じ込められて気の毒だったが、アメリカでは学校襲撃事件が一週間毎に起こっていて日常的だ。しかし、ヨーテボリーの北80kmの産業都市で、普通は平和なトロルヘッタンの小中学校で事件は起きた。その校外にいた父親の傍に、先ほどスウェーデン語で話してくれた少女がハンカチを覆いながら立っていた。娘に呼ばれてどのように駆けつけたか父親が説明しているとき、彼女は何度か瞬きをしてはうつ向いていた。叫びながら娘に急いで駆けつけてと懇願されたので、足元は浴室用のサンダルのままだった。
襲撃事件はスウェーデンを震い上がらせた。狂暴な犯罪は1961年以来初めてだった。生徒たちは一人でよく通学していた。誰もが通学できるようにと正門は旋錠されていず無防備のままだった。これは他の国では単純で危険なものと見抜いていたはずなのだが、スウェーデンではこれは社会が開かれ、市民に受け入れられているという、自覚的で深く根差された実践なのだ。
21才の犯人アントン・ルンディン・ペーターションは地元のスウェーデン人だった。目撃者によると、彼は黒いトレンチコートを着、マスクをかけ、黒いヘルメットを着用して学校に到着した。彼は大きな刃物で犠牲者を切りつけた。校門でイラク出身の教師補助を襲撃したあと、彼は白い肌の生徒をすぐに避けて現れた。スウェーデンの警察の話では、その代わりソマリア出身の15才の生徒を見つけ、殺害するまで進み続けた。そのあとすぐに警察が犯人を射殺、犯人は病院に運ばれたが死亡した。警察によると、彼の遺書から襲撃の理由が人種差別的な動機に裏付けられた憎悪犯罪だということが明らかになった。
アンダー・シュベリング・ブレビックとの事件とは似ていないが、ノルウェーの過激派が2011年の夏のキャンプ場で69人の人たちを殺害しテロリズムのかどで逮捕されたが、ルンディン・ペーターションは銃を所持していないが多数の死亡者を出した。
彼は多くの時間をインターネットで過ごす、孤独な青年という家族のよく見かけるパターンだった。そのインターネット上にはナチスドイツと反移民の極右主義者に引かれる痕跡があった。
引き下ろす前に、彼のフェスブックのプロフィールには数人の友人とドイツのヘビメタのバンド、ロマンシュタインのロゴがあった。人種差別主義者でフェミニストの彼らにシンパシーを感じていたことは確実だった。ルンディン・ピーターションが犯人だと判ったあと、右翼のグループがネット上で人種統合から国を守ったと告げた。
トロルヘッタンは極端に分離政策をとっている都市で、学校の近辺では人口の半分が外国人出身者だとスウェーデンの政治学者が言う。ドイツのような気前の良いヨーロッパの国々が、亡命者の手続きをきつくしたり移民のエキスパートが「誘引」と呼んでいることを制限したりしてきたときでさえ、スウェーデンは南部の国境を大開放したままで、亡命者の四分の三を受け入れながら国連の難民条約の幅広い解釈を採用する立場に立ってきた。
ヨーロッパ大陸の内と外にある国境支配の崩壊で亡命者処置についてヨーロッパのシステムに明らかな欠陥があることが見えてきたことやアフガニスタンの最近の悪化している現象によって、亡命を受け入れてシリア人に永住権を広げるという、ヨーロッパでもユニークなスウェーデンの政策が取ってきたように、この数カ月スウェーデンへの移民流入を容易にしてきた。
わずか950万のほとんどが同一民族の国で、人口の14%が現在外国人出身者で占められている。その数は上昇するとみられている。学校襲撃事件は移民局が発表したわずか数時間後に起きた。その発表は今年スウェーデンに19,000人が到着し、その数は前の推計のほぼ3倍でバルカン戦争時の難民の数を上回っているというものだった。
毎日約1500人以上の亡命者が到着し続けることによって内政の危機が起きた。12ヶ所ある亡命センターがここ数ヶ月の間に放火されたのである。最近の世論調査によれば、ポピュリストで移民反対党のスウェーデン民主党が急激に人気を獲得しているという。脆弱な緑の左翼の連立政権は、政権を維持するためにはいくつか妥協しながら、移民問題について中道右派と再交渉を強いられてきた。学校襲撃事件が起きた木曜日、スウェーデンのステファン・レーフベン首相は、突如トロルヘッタンの犠牲者とその家族と話すため彼らとの会談を延期した。
スウェーデンの歴史家ラーシュ・トレゴート氏が先週スウェーデンのラジオ局で語ったことが状況を的確に描いたとみている。スウェーデンは今理想の衝突を経験しているのだ。伝統的なスウェーデンの理想と自国のイメージには、一生懸命に働いて納税をする国民国家の誇りや容認の堅いイメージがまとわりついて回っている感じだ。しかしながら、さらに進化したスウェーデンの理想―多くの人が抱いている―は、より普遍的な人権に焦点が当てられてきている。高雇用の維持、市民として生きていくための住宅や社会福祉の保障それに国境を守ることというように、時には国民国家の伝統的な優先権を先に進めて、可能な限り多くの亡命者を支援したいことに力をいれている。
移民や難民の開放と同時に、フェミニスト外交という海外支援に多大な貢献をすることによって、スウェーデン政府は、人道主義者の超大国であることを誇りたいのだ。「自国のイメージ」と議会で反移民党を公言している党をもっていることヘの不快感を抱いてしまった自国のイメージとが、不幸にも最近まで極右派と重なることを恐れて、スウェーデンの政治家が保留しているのだ。スウェーデンが処理できることの限界があるかどうか移民のデリケートな問題について議論を避けているのだ。
現在スウェーデンもまた、国内のテロの行動にレッテルを貼ってしまうようなトラウマを持つだろう。確かなことは、ノルウェーのイェンス・ストルテンベリーのブレビックの射殺事件に対する穏やかなアプローチの線上に沿って、人種差別主義者の外国人恐怖症や憎悪に対して力強く宣言するには、絶えざる開放と忍耐が要求されるだろう。しかしながら、人道主義者の強い理想を維持している間、伝統的な社会とのコミニケーションを取ることにおいて市民の信頼を維持するためには、小国で裕福な国家は移民に対してさらに慎重になるざるをえないという人もいることも事実だ。
UNHCR(国際高等難民弁務官事務所)が最大の難民危機とずっと呼んでいることをみても、次世代に最も痛みの伴う複雑な政治的闘争になるだろうし、また、多くのスウェーデン人にとってまさに個人の問題に発展するはずだ。。

以上が『New Yorker』の記事だが、この文章を読んだだけでもスウェーデンの苦悩がみえてくる。大昔スウェーデンの人口は800万くらいしかなかった。その当時送られてきた最新資料には、教育改革を示した図表や解りやすい社会制度の図式があって、日本より大分先を行っていると思ったものだ。そう、高校の時分だ。筆者のスウェーデン理解はそれほどではないが、それなりの趣味的な付き合いで年季は入っていると勝手に思っているのだが。
さて、最近の難民問題は“夢の国”化した一部のヨーロッパの国への流入が信じられないほどの動きをみせて、ヨーロッパ諸国は頭を抱え続けている。まさしく苦悩するヨーロッパだ。シリアの内戦がもたらしたものは広くて深い。地理的にはかなり離れているファーイーストの日本だが、この事態を他人事と聞いて済ます訳にはいかないはずだ。私たちにできることは何かを考えなければならない時期である。もちろんスウェーデンの学校で起きた襲撃事件は痛ましい出来事で決して起こってはならないが、防止策も考えなくてはならない。アメリカではこのところ学校での襲撃事件が多発していて、これまた糸口が見い出せないでいる。銃規制だけはいち早く制度化してもらいたいものだ。人種差別問題がまた、表面化していて痛々しい事件が起きている。
筆者は出社前に毎朝海外のニュースを観ているけれども(15分余りだが)、特にヨーロッパの放送局では難民のニュースはリアルタイムで報道されている。荒海を越えられずに犠牲になった難民もたくさんいる。資本主義が産み出した格差社会、とりわけ負の連鎖が新天地へと駆り出している。しかも最小で最大の効果を発揮する文明の利器を携え、集団移動を容易にしている。GPSを頼りに荒海を越えて移動しているのだ。この10月だけでもその数21万人ともいわれている。スウェーデンの例が物語っているように、社会の弾力性が今問われているのだ。それは私たち一人ひとりの問題でもある。この事件はそれを如実に示してくれている。

追記 雑誌『New Yorker』は1925年創刊の高級週刊誌、一時期経営難もあったようだが、今や100万部以上を誇るアメリカのクオリティーペーパーだ。センスは抜群、日本にはこの手の雑誌がないのが残念だ。

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