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2014/02/16

超人の面白体験 ありえない話① 風雪流れ帰宅

“バレンタイン大雪”と勝手に呼んでいる2月14日(金)の首都圏2回目の大雪。東京や横浜では25センチ、埼玉の熊谷では67センチの積雪があって、近年稀な大雪となった。こういう状態になればまず交通機関などの乱れが心配だが、大方は会社を早目に終えて帰宅させる対策が奏功したようだ。中には通常通りの終業で家路に向かったがとんでもない光景に出会った人もいた。何を隠そう筆者自身もその一人だったのだ。そのドキュメントを綴ってみたい。題して「風雪流れ帰宅」。
取引のあるY社は本日は大雪が予想されるため午後3時で終業した由、筆者らも午後6時10分過ぎには社を出た。外は粉雪が舞っていて多少風も。午後6時40分、東京駅を12、3分遅れて発車したO駅行きの紺色電車だが、新橋駅、品川駅で前の電車の車間距離を保つため何分か止まった。M駅に着き前と同じように進むのかと考えていたら、電車がなかなか進まない。女性車掌のアナウンスが7分おきぐらいに流れた。O駅でのポイント修理に時間がかかっていて発車できない状態と。あと少しで回復するとたかが食っていたのが間違いだった。何時になっても発車しないで止まったまま、嫌気がさして重い腰をあげた。以前に突然停止して事故った動く歩道(止まったままの状態)を通り抜けると雪がホームに吹きかけてきた。いつの間にか線路の周りには雪が降り積もっていたのだ。一週間前の雪より幾分多いと感じたのは風があったせいかも。行き先の経路を替えてしばらく待って黄色い電車に乗り継いだ。やはりいつもの時間帯より混んでいた。20分位でまた乗り継ぐK駅に到着。今度はオレンジ色の電車に乗った。少し足踏み状態みたいだったが、待たずに動いた。先ほどの黄色い電車と違って東京から西へ走るメインラインは満杯でラッシュアワー並み、辛うじてドアに手を当てて身体のバランスを保った。次のY駅で大分降りたので車内に余裕ができて一安心。ガタコト、ガタコトと電車の音がいつもより大きめに聞こえたのは気のせいかと不思議に思っていたら、次は*ツカ、次は*ツカと車内にアナウンスが。時計を見て驚いた、午後9時20分過ぎ。東京駅からここまで普通なら42分かかるところが、なんと3時間弱もかかってしまったのだ。
雪は衰えるどころか益々勢いを増して降り続いていた。T駅を降りて*ツカーナの3階からバスセンターに向かうも、吹雪いているせいか雪が小さな山を作っていて、雪を踏み潰して歩くしかなかった。ここでもう25センチだ。階段では降り積もった雪を払いのけて、バス乗り場の一番前にあるタクシー乗り場へ。タクシーを待つ人が30人はいたか、その間タクシーは一台帰ってきたのみ、これではいつ帰宅できるか分からないので、観念していつものバス乗り場に向かったが、これまた階段の下まで並んでいた。その数50人位。この異常な光景を目の当たりに見て急に不安になった。その時ある考えが浮かんだ。そうだ、A店へ行こう。途中コンビニで軍資金を補充してA店へ寄るも、マスターが今日は車は来ないよ、だった。仕方がなく自宅まで歩くことにした。吹雪く雪路をだ。徒歩で帰宅したのは何十年振りだろう、確か手持ちがなかった時に一度だけ夜中に歩いた記憶がある、それ以来だ。
A店から雑誌や仕事道具が入ったカバンを手袋した右手に持ち、さらにスープの入った水筒と読みかけの厚い本が入った布袋を下げ、左手にビニール傘を持って歩き始めた。時々横殴りの風雪にビニール傘が吹き飛ばされるハプニングも。消防署がある幹線道路に出てそこを左折し、5分位行って十字路の信号のあるところを今度は右折してすぐにコンビニに入った。午後9時50分、さすがに小腹が空いたので肉まんと帰宅後に暖かい飲物と考えて紙パックの日本酒を買った。ところが、紙パックの日本酒が意外と重い、吹雪くのでビニール傘も煽られ、対向車がすれすれの狭い路、登り坂、うねり下り坂、急坂などを通過しなければならない難所の路をこの荷物をぶら下げながら雪路を行くのだから覚悟のほどが知れようというものだ。そのコンビニを出て肉まんを頬張り始めた。傘や諸々を持ちながら左手の肉まんをかぶりついたまでは良かった。その後手荷物が重たくて食べている状態ではなかった。しかも吹雪いていているし、足下は27センチ位の雪が積もっていて踏み潰して行かなければならなかった。苦肉の策で途中路の真ん中に立ち往生して一気に肉まんを食べたのだ。それがうまかった何の、言葉では言い表せない位。右手が多少ネバネバして手袋がはめにくい、咄嗟に雪でその手をクリーニングしてはめ直した。コンビニからまだ15メートルしか進んでいなかった。ともかく雪を踏み踏み進んでいくしかない、道路下のトンネルを潜ってーこの間対向車は一台のみー右手におこげの店がまだ開店していてキッチンから出す煙が異様に見え、腹ごしらえでもと考えたが、ちらりと眺めただけで先を急いだ。今夜あたりは誰も客がいないはずだと勝手に想像してみるが、もしかしたらスーラーメンを食べている客がいた?このおこげの店はスーラーメンののぼりも出しているのだ。このあたりは江戸時代郭で賑わったところらしい。今はホワイトアウト状態だ。確か植木屋、その先は石屋、その左手先は沼地だったが、登り坂にさしかかる左右は今やマンションや崖を崩してまで住宅が建ち並ぶ。しかし今夜はホワイトアウト状態。ズブズブと音を立てて歩くが坂道は思うように先に進めないのだ。途中タクシーを見つけるも、ドライバーにもう走れないと断られたのだ。吹雪くし雪はあるし足跡はないし、ないないしの状態で30分は歩いたか。
高台の昔H社の寮があった桜の名所に辿り着いた。少し変形な十字路を右折したら左手に人影があった。小学生が玄関前で雪と戯れていた。こんな遅い時間にだ。チミ、寒いぞ、早く家の中に入りぃ、といつの間にか呟いていた。一軒先の建築士の家の駐車場では若者が雪掻きをしていた。この辺は晴れた日には一望に見渡せる高台なのだ。ザクザクと先を急いでいくうちに、こんな機会は秋田や青森など北国しか出会わないから写真でも撮ろうと考え、面白そうな光景を探した。が、木々に降り積もる雪かそれとも車か、手荷物が邪魔して携帯カメラが上手く作動してくれない、いや、持ち上げられなくて、口を使いたくなる心境だった。ここがいいなと何台も並んでいる駐車場の車を撮ろうとしたが、いや待てよ、平凡過ぎるかとシャッターを押す前に止めてしまった。雪でずぶ濡れ、吹雪くし足下はズブズブ状態。ここの駐車場の会社は今でこそ社名は変えられているが、ケチで有名な、いや、節約日本一みたいな会社で昔の社名は未来*と言ったか、岐阜あたりに本社があってここの年老いた名物社長が有名だった。テレビに2回位は出ていたはずだ。
その昔東急不動産が開発したらしい住宅地の下り坂に益々積み上がっていく雪を直に見、またビニール傘がまたもや吹雪にやられて吹き飛び、その度に手荷物がバランスを崩して、我ながら不格好を地で行く姿に笑ってしまった。雪の中懸命に運動をしているせいか意外にも身体の中は暖かくて気持ちがいいものの、外は相変わらずホワイトアウト状態。
伊藤整の詩集『雪明かりの路』を思いだした。その一編「雪夜」から。

あゝ 雪のあらしだ。
家々はその中に盲目になり、身を伏せて
埋もれてゐる。
この恐ろしい夜でも
そつと窓の雪を叩いて外を覗いてごらん。
あの吹雪が
木々に唸つて 狂つて
一しきり去った後を
気付かれない様に覗いてごらん。
雪明かりだよ。
案外に明るくて
もう道なんか無くなつてゐるが
しづかな青い雪明かりだよ。

大正14年刊行のもので少なくとも約90年前の作だ。
【特選 名著復刻全集 近代文学館 昭和46年7月1日発行 伊藤整著 雪明かりの路 椎の木社版より】


やがて小さな公園のそばを通り過ぎ、左折して急坂にさしかかった。その前に一度立ち止まりシャッターチャンスを窺った。暗い中での撮影、どうなったかー。

Image_3

急坂は難所であった。ズブズブまではまだ良かったが、登るにつれて吹雪いてできた雪の小さな山に足を踏み入れた途端、なんと膝あたりまで雪があるではないか。ズボンが台無し、一人暗闇で葛藤している自分が可笑しかった。本当は笑える状態ではなかったが笑えてしまった。不思議な心境だった。ズブズブ、ズブズブ、ズブズブと這い上がった感じで坂を登りきった。左折して真っすぐに10分位歩いた。まだ所々に家の明かりが灯っていた。気持ちが悪くなるほどの静寂だ。もうすぐ帰宅できる、気持ち足早になった。雪を掻き分けながら遥かソチオリンピックに馳せた。フィギュアスケートの羽生は?ジャンプラージヒルの葛西選手は?
ついに家に辿り着いた。時計は午後11時を回っていた。とんだ災難だったが筆者の気持ちは久し振りに清々しかった。

だからもっと早く帰らないと、
奥の部屋で家人が言った。

筆者はまだホワイトアウト状態から抜け出せずにいた。
すぐさま紙パックの日本酒を沸かして呑んだ。
少し辛かった…。

Image

【写真: 翌朝に撮影した雪景色】

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