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2013/12/30

超人の面白読書 102 キャサリン•サンソム著  大久保美春訳『東京に暮す』 4

日本人がモダンになろうとする試みのなかには、ナイーブで微笑ましいものもあります。若者の中には、「モダンになる」ということがどういうことかも知らないで「モダンになろう」とする人たちがいます。彼らは帽子を斜めにかぶり、杖を振りながら街を闊歩したり、髪はショートカットで、器用な手でさっと縫いあげた格好のよいモダンな服を着た女の子たちと何時間も喫茶店にすわっていたりします。2、3年前に初めてこの風変りな若者が街に現われた時には「モボ」「モガ」と呼ばれましたが、これは「モダンボーイ」「モダンガール」(原文ではモボ、モガに傍点)の略で、後者は日本人には発音がとても難しい「girl」の日本式の読み方です。日本語にはL(エル)の音がないのでR(アール)で代用し、すぐ後に母音のu(ユー)が入ります。今では「モボ」「モガ」がすっかり定着したので、若者の中には西洋の服装だけでは満足せず、他の面でもモダンになろうと考える人たちもでてきています。
日本人が「モダンになろうとする」のが滑稽だとしたら、火消しや人力車の車夫の服を着てホテルのロビーにすわっている外国人も滑稽です。ところが今日では、日本人の服装や習慣を面白半分に真似る外国人があまりにも多いので、少なくとも東京では、外国人が何をしても驚かれなくなりました。(本文P.176-p.177)
これは著者が悲惨な戦争に突入する以前の昭和初期の東京の流行を的確に捉えている文章である。85年以上経った今でもこの日本人特有の省略の仕方は健全で、時には相当な威力を発揮する場合もあるが、この当時の言葉の縮め方もすごく、音韻的にも洒落ていた。外来語の省略形の典型的でしかも社会を映し出している語、「モボ」「モガ」も外国人の目からは自分たちにも真似る人も多かったとみえて、半ば呆れながら可笑しく活写している。銀座の喫茶店『パウリスタ』辺りで奇抜な服装をしてブラジルからのコーヒーを飲みながら屯していたのかしら。〈続く〉

2013/12/27

超人の面白読書 102 キャサリン•サンソム著 大久保美春訳 『東京に暮す』  3

本書はマージョリー西脇女史の挿絵が42枚入っていて、タッチといい、表情といい、洒落ていてユーモラスである。下記は筆者が本文からピックアップした挿絵。一番下の挿絵には「低温牛乳」と書かれた文字があるが、本書が書かれた昭和初期には低温で殺菌された牛乳が出回っていた。それは黒川鍾信著『東京牛乳物語 和田牧場の明治・大正・昭和』に詳しい。また、筆者のブログ(『超人の面白読書 62 』2009年12月20日~12月27日)も参照されたい。挿絵は左から「二人の赤ん坊を抱える母親」(P.97)、「チンドン屋ー巡回宣伝マン」(P.197)、「保養地の大衆浴場」(P.219)、「下宿する学生」(P.154)。改めてよく見ると、今年話題になった小学館ビルの漫画家による落書を彷彿させる。マージョリー西脇女史は漫画家のさきがけの人、だったー。
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追記 昨日の日経新聞(2015年6月7日)のコラムは、昨今の外国人観光客の急増について書いていたが、英文学者で詩人の西脇順三郎の最初の夫人であるマージョリさんが挿絵を描いた、キャサリン・サムソム著『東京に暮らす』の本に言及して、昭和の初期の当時も日本人のもてなしや親切心は変わらないとそのコラムを締めくくっていた。いやはや、コラム子は勉強家、こういう本まで掘り出してくる。できれば挿絵に少し触れてほしかったがー(2015.6.8 記)。

2013/12/26

超人の面白読書 102 キャサリン•サンソム著 大久保美春訳 『東京に暮す』  2

11月中旬に新潟の小千谷図書館•西脇順三郎記念室でマージョリー・西脇女史の洒落た挿絵が入った『東京に暮す』をガラスケース越しに眺めた。

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  註。この写真は2年前に行ったときに撮影したもの。

異文化の読み物としては打ってつけの本、ぜひ読みたくなり買い求めた。この月は超多忙を極め、じっくりと読書の時間が取れなかった。勿論他の本や雑誌も読んでいたのでこの本を読了するのに多少時間がかかってしまったのだ。
この手の本は外国人が日本をどう見ているかの類で見聞録に属するが、賢い読者は見聞録といえば、シュリーマンの『清国•日本』だとすぐに想起されるはず。筆者は最近同じような外国人による見聞記を見直し、websiteに再構成したばかり。こちらはスロヴニア人が見た京都の印象記だ。〈続く〉

2013/12/25

超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳 『東京に暮す』

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岩波文庫の表紙カバーには次のようにカラー刷りで記されている。

LIVING IN TOKYO 
東京に暮す 
1928―1936
キャサリン・サンソム著 
大久保美春訳

By Katharine Sansom
with 42 illustrations, By
Marjorie Nishiwaki
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<続く>

2013/12/23

超人の面白映画鑑賞 リヴ&イングマール ある愛の風景

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渋谷のユーロスペースで『リヴ&イングマール ある愛の風景』を観た。ノルウェー出身の女優りヴ・ウルマンとスウェーデン映画監督の巨匠イングマール・ベルイマンとの個人的な関係を描いたドキュメンタリー映画。
リブ・ウルマンがベルイマンと愛憎劇を繰り広げたスウェーデン・フォール島のベルイマンの自宅でのインタビューそれにベルイマンが彼女に宛てた手紙などから構成されたドキュメンタリー映画で、『仮面 ペルソナ』、『狼の時刻』(劇場未公開作品)、『恥』(劇場未公開作品)、『沈黙の島』(劇場未公開作品)、『叫びとささやき』、『ある結婚の風景』、『秋のソナタ』や『サラバンド』の作品を挿入しながら、監督と女優の関係からパートナーへ、また、愛憎劇の後友人となり、2007年7月のベルイマンの死に際してはいち早く駆けつけて看取った一人として、彼女のベルイマンに対する思いのたけを語りつくしたラブストリー。ここには人間ドラマの究極な姿、尊敬と理解の入り混じった人間の“痛いほどの絆”painful connectionがあった―。有体に言えば、リブ・ウルマンは強い女だったということか。
そう言えば、イプセンの戯曲『人形の家』でノラが家から出で行く最後の有名なシーンも登場(りヴ・ウルマンが演じた舞台のシーン)し、リブ・ウルマンは自分の個人的な体験も踏まえてこのことに言及していた―。

2013/12/12

超人の面白映画鑑賞 マルガレータ・フォン・トロッタ監督『ハンナ・アーレント』

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岩波ホールで昨日まで上映していたマルガレータ・フォン・トロッタ監督『ハンナ・アーレント』。ナチス戦犯アイヒマンの裁判レポートを雑誌「ニューヨーカー」に掲載しセンセーショナルを巻き起こすも、不屈の精神で「悪」と真実とは何かに立ち向う哲学者ハンナ・アーレントを描いた映画。上映時間119分。筆者は上演最終日の夜出かけたが、想定外の観客、ほぼ満員。映画は1960年アイヒマンがイスラエルの諜報員に捕まるところから始まり、学生の前で信念を貫き通す迫力ある講義で終わる。「悪の凡庸さ」を唱えて。感動的だった。筆者的には学者仲間、雑誌社編集員など執筆に絡むやりとりが大変興味深かった。これほどではないが、ちょうどそんな光景が筆者周辺で現実的に起こっていた時だったから尚更思いを深くした。

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