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2011/03/21

超人のジャーナリスト・アイ 136 東日本大震災福島第1原発事故 20~30キロ圏内、続く混乱 

毎日新聞 2011年3月20日 東京朝刊より。

東日本大震災:福島第1原発事故 20~30キロ圏内、続く混乱

※半径80キロは米国が自国民に出した避難勧告の範囲 ◇患者ら120人、避難できず
 東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の半径20キロ圏内に出された避難指示と、20~30キロ圏内の屋内退避指示の影響で、福島県内の周辺自治体に混乱が広がっている。避難の難しい入院患者だけが取り残されたり、圏外なのに運送会社に物資輸送を断られるなどの事態が発生。住民の安全を図るための措置でなぜ、混乱が起きているのか。【樋岡徹也、福永方人、堀智行】

 ◇受け入れ先なく--福島・広野町
 政府が屋内退避指示を出した半径20~30キロ圏内にある広野町。町は13日、「放射性物質が届く可能性があり、早めに避難した方がいい」と、全町民約5500人に避難指示を出した。大半は自家用車や町が用意したマイクロバスで周辺5市町村の避難所へ移動したが町内には今も入院患者など約120人が残る。「電気も電話も通じない中で限界だった」。町の福祉担当職員は無念さをにじませた。

 このうち計約110人は、同町の高野病院の入院患者らと、同じ敷地内にある特別養護老人ホーム「花ぶさ苑」の入所者。病院は町の避難指示を受け、受け入れ先の病院や施設を探そうとしたが、停電で電話をかけられなかった。県に受け入れ先を探すよう求めても見つからなかった。

 町と協議した結果、「寝たきりや治療が必要な人を無理に移動させても、結局行き着くのが体育館では逆に悪影響になりかねない」と判断。医師や看護師6人と入院患者らは残ることになった。町役場の機能も15日、原発から約40キロ離れた同県小野町へ移転した。

 問題はそれだけではない。電話が通じないため、町は患者らの容体や物資が足りているかなど状況をほとんど把握できない。18日に初めて自衛隊を通じて情報が入り、燃料や食料を差し入れた。男性職員は「不安に思っているお年寄りも多い。埼玉県や栃木県で受け入れ先を探しており、見つかり次第すぐに移したい」と話す。

 「遠く離れた福島市よりはるかに放射線量は少ないのに」。同じく20~30キロ圏内にある南相馬市の大町病院の今野覚治事務長(65)はため息をつく。病院周辺でも住民の避難が相次ぎ、燃料を確保しようとガソリンスタンドには1000台以上の列ができている。

 同病院は放射性物質対策として、4日前から外来を中止。145人の入院患者を40人のスタッフとボランティアで支えている。しかし、市が30キロ圏内にいる住民の集団避難を発表すると、「危険なのでは」とボランティアが来なくなり、急きょ別のボランティアを手配せざるを得なかった。

 ◇輸送敬遠、滞る物資
 30キロ圏外の自治体でも、深刻な影響が出ている。市北部のごく一部が30キロ圏内に入るいわき市。「『いわき市は危ない』という間違った情報がインターネットなどにまん延し、物流が深刻な状況だ」。鈴木英司副市長(59)は悲鳴を上げる。

 屋内退避の指示が出て以降、運送会社が同市までの燃料や食料の輸送を敬遠し、途中の郡山市までしか運んでくれなくなった。市役所や非番の消防職員を動員し、市内まで運んでいるという。

 さらに、届いた物資をガソリンスタンドやコンビニエンスストアに振り分けようとしても、店舗から「従業員が避難してしまい、営業できない」と受け入れを断られる事態に発展。鈴木副市長は「ようやく物資が届いたと思ったら、今度は売る人がいない」と頭を抱える。断水などインフラの復旧遅れも不安に拍車をかけている。

 なぜ30キロ圏外でもこうした事態に陥ったのか。鈴木副市長は「的確な情報が足りないためだ」と指摘する。30キロ圏内に入るのは14地域のうち北部の1地域だけだが、政府が屋内退避を発表した際、市全体が対象のように受け取られ、東京の親族に身を寄せる市民が出るなど動揺が広がった。

 鈴木副市長は「放射線の数値を見ても、市民にはどのくらい危険か判断しにくく、不安ばかりが募る。早め早めの正確な情報を一番望んでいる」と訴えた。

 ◇国の指針不十分 防災対策は「10キロ以内」
 国の原子力安全委員会が策定した防災対策指針は、「防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲」(EPZ)の目安を原発から半径8~10キロ以内とする。EPZは、住民の被ばく対策が必要なエリアとして「技術的にあえて起こりえない事態まで仮定して決めた」とし、「範囲外では屋内退避や避難などの防護措置は必要ない」としている。原子力施設周辺の自治体はこれを基本に、原子力災害対応の基本となる地域防災計画を策定している。

 だが今回、避難指示は半径20キロ、屋内退避指示は20~30キロ。結果的には、国の想定が不十分だったことを認めたも同然だ。そして、国の指針で示されたEPZを超える設定に、原発事故を想定もしていなかった周辺自治体には混乱が広がった。

 20~30キロ圏内の広野町は、近隣自治体と原子力災害対策計画を作り、避難経路などを定めている。だが、計画で想定している範囲は「半径10キロ」。広野町災害対策本部の職員は「10キロ以上は安全だと思っていた。20~30キロまで範囲が広がることは想定外で、混乱が生じた一因だ」と説明する。市の3分の2が30キロ圏内になった南相馬市の災害対策本部の職員はそもそも、「原発事故を想定した避難計画というのは聞いたことがない」と話した。

 20キロ圏内にある富岡町。幹部は「防災計画にない広域避難を指示するなら、避難先や避難経路の確保は国や県がやるべきだ」と憤る。

 ◇米国の想定は格納容器爆発
 EPZの範囲は妥当なのか。

 原子力施設に詳しい技術評論家の桜井淳さんによると、米国には70年代にまとめられた原発の被害想定データがある。出力100万キロワットの原子炉が炉心溶融を起こし、格納容器が爆発して放射性物質が上空1500メートルまで噴き上がった事故を想定。標準的な気象条件(快晴、風速10メートル)などでは、被ばく量が致命的な値となるのは、半径20~30キロ程度とされたという。桜井さんは「危機管理上、最悪の事態が起こりうることを考慮し、この程度の範囲まで想定すべきだったのでは」と指摘する。

 米国は16日(日本時間17日未明)、福島第1原発から半径50マイル(約80キロ)以内に住む米国人や救援活動にあたる米軍に対し予防措置として圏外に避難するよう勧告した。桜井さんは米国の70年代の被害想定を基に「50~100キロ圏内は健康に大きな影響はなく、100キロ以上なら全く影響がないとされており、そうした基準から判断したのでは」と推測する。

 日本の想定とは全く違う米国の反応は、周辺住民の不安に拍車をかけることになった。いわき市の鈴木英司副市長は「米国が80キロ以上離れるよう指示するなど、何か動きがあれば動揺が広まってしまう」と嘆いた。国の甘い想定のツケを地域住民が払わされている。

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