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2010/12/22

超人の面白読書 78 ペール・ラーゲルクヴィスト著 尾崎義訳『バラバ』 3

 この小説の概要は訳者解説から引用した方が良さそうだ。

 この小説《バラバ》は、新約聖書によると―四福音書によって多少記述は違っているが―極悪人で、民衆の要求によってキリストの代わりに赦免された人物、バラバの運命を主題としている。われわれが聖書で知っているできごとなどもでてくるが、あくまで小説である。中略。
全編を通じての悲劇的運命の主人公バラバの内面的変化の経路は、大きく三部に分かれている。第一部はゴルゴダの丘から山賊に戻るまで、第二部はローマ人の鉱山奴隷として生き地獄にあえぎながら、キリスト信者である奴隷サハクとの交渉をもつにいたるところ、第三部は三度死を免れきたバラバがローマにおけるキリスト教徒迫害の犠牲になるまで、である。
 次に篤信なカトリック信者である訳者尾崎義氏(田中三千夫の解説補遺を参照)の見解が続く。
 そのころの素朴な、あるいは無知であったかもしれない使徒や信者の信仰が、どんな内容をもっていたか、その人たちの集団がどんな形をとりながら発展していったか、をラーゲルクヴィストは描きながら、その人たちの信仰がいかに強いものであったかを認めずにはおれないのである。信じることのできない、愛することのできない―それがバラバの悲劇の性格であると思われる―彼バラバとは対蹠的な一団の信徒たち、ときには外圧的な力によってただ引きずられていくにすぎないような彼らが、愛の教えを、よしんば盲目的にもせよ信ずることによって、そしてその信仰の力によって、結局は初代キリスト教の土台が築きあげられた、というラーゲルクヴィストの見かたは肯定されうるのではあるまいか。

 残念ながら筆者はキリスト教の知識をほとんど持ち合わせていない。他の一般の日本人同様に、宗教には寛容だといえば聞こえは良いが、有体にいえば、いい加減なのである。無関心、世俗的に習慣に従っているだけだ。そのような人間にはこの本は読み解きにくい。だから訳者解説を長々と引用したのだ。
全体的に灰色的な色彩の中、ある人間が彷徨い歩く姿に、時に宗教的なテーマを映画化したシーンが浮かんだ。闇の中に一条の光そして群衆の声……。内面を汲み取っていく会話体。
 以前にも書いたが、ノルウェーの作家ビョルンソン、ベルイマン、そしてペール・ラーゲルクヴィストいずれも牧師の家の生まれ。従順さと反抗がモチーフになって葛藤の道程を創造的に描いたと思うのだ。人間の根源的な問いをわれわれに突きつけながら。東洋的な感受力の違いも感じたが。しかし常日頃から思っていることだが、西洋的な文化の背景にはキリスト教の知識が欠かせないことをまざまざと見せつけられた。

 クリスマスはもうすぐ―。

 さて、次はデンマークに目を向けたい。最近刊行された原作アンデルセン、文語訳森鷗外、安野光男口語訳『即興詩人』だ。

付記。国立国会図書館の新聞閲覧室に行ってペール・ラーゲルクヴィストの死亡(1974年7月11日)とそのコメントを確認したが、朝日新聞の死亡欄の記事は脳卒中と数行(写真入)のみ。日本ではその程度だ。そう言えば、ベルイマンも2年前の同じ7月に亡くなっている。(2010年12月22日 記)

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