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2010/12/11

超人の面白読書 77 ノーベル賞作家ビョルンソン著『アルネ』続

 アルネの父親、仕立屋ニルスはバイオリン弾きをしながら村の舞踏会をかけまわり酔って帰宅、母親ビルギットはそんな夫を病気と諦め、野良仕事に精を出す。アルネは母親から読み書きを習う。彼は物覚えが大変良く、父親もそれが自慢で舞踏会ではみんなの前で唄わせた。アルネ15才、家畜の世話などを手伝うようになる。船長の息子と知り合い、地理書や地図の正しい見方を教えてもらい、かなり読書好きになる。ある日父親ニルスが倒れて死んだ。
 アルネ20才、彼は無口な、人おじする青年になった。家畜の世話をしたり、唄を作ったりした。村の牧師はそんなアルネに学校教師の職をすすめる。野良仕事をなにくれと手伝う、上地の中年男クヌート、彼も暇さえあれば歌をうたった。

「シッレヨールのイングリッド・スレッテン
こがねしろがね持たないけれど
色の毛糸の小頭巾ばかりはおふくろからのお下がりものよ」
(P.46)

 アルネが納屋で初めて酔っ払う。自分のやることは、なにもかも臆病だと独り言を言う。そんなアルネを母親が優しく慰める。アルネの人々に対する態度も変わり、優しい眼でみんなを眺めるようになった。

このうるわしい夏の日に
うちの中には居づらくて
ざんぶと滝に飛び込んで
これは極楽と言ってたら
日照りにやられ土左衞門
だからこの詩はだれのやら(P.67)

 恋と女とが彼の心を占めるようになる。村の娘が集まる名親さん主催のクルミの会にも顔を出し、恋の話などを聴いた。そこでエリと知り合う。上地のクヌートをカンペンの作男に雇い、アルネ自身ものこぎりの使い方など心得ていたので大工職人になる。村の牧師館に行って指物をすることになった。そこには娘が時々いた。エリとマチルデ。
 ベエンから使いが来て、アルネは指物の依頼をされた。その比較的裕福な農家はかつての父親のライバルボールの家だった。彼の娘のエリが病気から快方に向かう中、アルネは母親の頼みで彼女に歌をプレゼントする。アルネとエリの親密さの増すシーンだ。

 山国では、春がおそい。冬のまは、週に三度、国道をはしる郵便馬車も、四月になると、もう、一度しか来ない。すると山の人たちは、よそでは雪が消え、氷がとけて、蒸気船がかよい、すきが大地に入れられるころだと思うのだ。このあたりでは、まだ雪が六尺余も積もっていて、家畜は小屋の中で鳴きたて、鳥はもどってきても、身をひそめて凍えている。ひょっこりやってくる旅人は、馬車を下の谷間に乗りすててかたなどと語り、路ばたで摘んだといって、手に持ってきた花を見せたりする。すると、人びとは浮き浮きしてきて、歩き回ったり、おしゃべりをしたり、太陽をながめては、毎日どれだけ高くなるかを見ようとする。雪の上には灰をまいて、いまじぶん花を摘んでいる人たちのことを想うのだ。(P.129)

 カンペンのマルギットが牧師館を訪ね、アルネのことで相談をする。マルギットはある時牧師館でエリ・ベエンを見つけ話しかけ、いつの間に自分の家に連れて行き、アルネの部屋まで案内するばかりかアルネの宝物まで彼女に見せてまう。アルネがいかにエリを想っているか母親の出しゃばりだ。やがてアルネとエリが結ばれる。婚礼が執り行われた。

 婚礼の行列が船着場へと下っていって、アルネがエリに手をかして、先頭に立ったとき、ボールはそれを見ると、いっさいの風俗習慣にそむいて妻の手をとり、うれしそうにしてあとについていった。が、そのあとからは、マルギット・カンペンが、いつものように一人しょんぼりと歩いていった。その日、ボールはすっかり我れ忘れていた。彼は座って船頭たちとしゃべっていた。そのうちの一人が、うしろの山を見上げて、あんなにけわしい岩山が、一面に緑でおおわれているのは、ふしぎなことだと言った。「なるようになるものさ、人がなんと思うとね。」とボールは言って、行列を端から端まで見渡して、とうとう花嫁花婿と自分の妻との上に眼をとめた。(P.177〜P.178)

 これが粗筋。農民小説、山岳小説、成長小説、歌物語と多岐にわたって読める小説だ。作者ビョルンソンは牧師の子でノルウェー北部の農民たちを見て育った。それはこの小説にも山岳地方の自然描写としてまた、農民の生活描写として表れている。この『アルネ』は1850年代に書かれた小説で、主人公アルネの純情と詩作がこの物語の主流。高い山を越えて彼方に行きたかったが、裕福な農家の娘と相思相愛で結ばれて地元に留まる。ここに作者のテーマの一つ、社会階層の上昇志向が読み取れる。プロットは今の小説からすれば単純だが、情報過多の今の時代、忘れかけている純朴さがここにはある。
 ビョルンソンには他に『快活な少年』(En glad gut.,1860)、『漁夫の娘』(Fiskerjenten,1868)、『婚礼の行列』(Brudeslaatten,1873)、戯曲『破産』(En fallit,1875)、『スヴェルレ王』(kong Sverre,1866)、『王』、『レオナルダ』、『編集者』など多数の作品がある。詩集は『詩と歌』(Digte og sange,1870)。ライバルのイプセンが、反省型の、孤高寡黙の懐疑家に対し、ビョルンソンは思い立ったらその場で口に出し、実行に移さずにはおかない闘志型だ。ノルウェーの国歌「しかり、われらはこの国土を愛す」(Ja,vi elsker dette landet)もこの作家の作。1903年ノーベル賞受賞、パリで客死するが、遺体は軍艦で本国に運ばれ、この国民的作家の葬式は国葬もって執り行われた。(訳者あとがきなどより)彼は作家だけに留まらず、当時のノルウェーのために尽力した。長らく50クローネ紙幣に描かれていた。
 ビョルンソンの人と作品については昭和47年刊『ノーベル文学賞全集 19』(主婦の友社 絶版)に詳しい。批評家としても卓越していた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、ビョルンソンの文体について暗示的かつ印象的で、簡潔を極めていると激賞。(新潮社 昭和3年刊『世界文学全集 27 北欧8人集』解説より)。訳はこなれているが古い。改訳が必要だろう。原文は1850年代に書かれていて、日本では幕末の頃だ。

追記。ビョルンソン受賞から107年後の今年(2010年)のノーベル文学賞受賞者は、ペルー出身のマリオ・バルガス・リョサ氏。代表作は『緑の家』。

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