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2010/05/16

超人の文学散歩 世田谷文学館『星新一展』

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超人の文学散歩世田谷文学館『星新一展』

 デジカメの映像がサイケ調に変色、映像としては面白いと思うが、何かの不具合らしい。何度やっても同じ状態で、ついに家電量販店の修理コーナーを尋ねた。撮影した映像を取り込むところのCCDに不具合が生じたためらしく、修理になると16000円位はかかるとは店の人の話。それなら新しいデジカメを購入したら安上がりだとアドバイスされた。で、新機種がおいてあるコーナーへ。24800円でカメラの概念を変えたような、タッチ式のカメラがあった。被写体を覗く側のフレームが大分大きく、いろいろと斬新である。経済的に余裕がない状態なので、一応カタログを持ち帰った。今度はメーカーの修理受付係に直接電話してみた。すると、池袋にその場で直してくれるメーカーの修理部門があるとのこと、故障状態を告げると部品を取り置いておくので、直接来て下さいとの返事。再チェック後CCDの不具合であれば無料で交換しますと。ラッキーである。
 というわけで、午前10時に池袋にあるメーカーの修理部門を尋ねた。やはりCCDの不具合と判明、45分後無料でデジカメ修理が完了した。はて、この差は何だろう。家電量販店の言い分を鵜呑みにしていたら余分な出費がかかってしまうところだった。助かったのである。
 そのデジカメを持参して『星新一展』を観に京王線芦花公園駅近くにある世田谷文学館を訪ねた。入口左側にはボッコちゃんを始め星新一の著作がずらり並んでいた。入場料700円を払って受付を済ませて2階の企画展へ。すでに家族連れ、カップル、オバタリアンなどが観賞中。最初は左側に幼少時の星新一、尋常小学校時代の集合写真、新一少年はどこにとクイズも。 星新一が描いた絵、祖母の小金井喜美子(森鴎外の妹)が描いた表紙のノートや絵日記それに地理の授業のノート。絵は上手いが字が小さい。昭和9年10月、父が世界視察旅行に出かけたときの作文もあった。原稿用紙に自筆で丁寧に書かれていた。星新一年譜と平行して愛用品が並べられている。ホシヅル、テディベア、根付け、作家さんの自筆のコースター、その数47。五木寛之、井上ひさし、水上勉、安岡章太郎、井上靖、手塚治などだ。銀座8丁目のバー『まり花』で集めたもの。星新一の父、星一が野口英世と並んで撮った写真と顕微鏡、それを境に星一のコーナーと続く。その前に星一が世界視察旅行に出かけるときの映像が写し出されていた。旅行に出かける当日の東京から横浜で出帆するまでの映像だが、当時の東京駅、電車、横浜港などがリアルに分かって面白い。今から76年前の都市風景だ。幼い星新一も家族とともに見送りに来ていた。
 星一が社長の星製薬会社の親切第一と書かれた額が陳列されているコーナーの手前で、娘のサリナさんのコラムをさらっと読んだ。父親譲りの文章か。そういえば、『30年後』という星一の小説もあった―。愛用の制服、蝶ネクタイやスティッキ、星商業専門学校設立記念式典の写真、手帳やパスポート、ドイツ化学会からの感謝状、吉田茂の名前の入った弔辞の原稿などが展示されていた。次の一角は星新一の著作や星一の著作や翻訳、順路右手へ。先ほどのモニターの脇には星製薬の製品の数々。モルヒネ、キニーネ、胃腸薬数種など。そして著作拡大版、明治・アメリカ・父それに官吏は強し人民は弱しの自伝拡大コーナー、細かい字で書かれていた下書きそれに原稿、著作からの引用パネル、その中に夫星一が遭遇した疑獄事件の裁判に無罪を願う妻精の歌が本にそっと挟まれていた。鉛筆書きの柔らかな形といい、切実な想いといい、少なからず心を動かされた。次に祖父小金井良精の記拡大版そして関係者、新渡戸稲造、後藤新平、頭山満、杉山茂丸などの明治の人物誌コーナー。図解の構図が斬新。すでに半分は過ぎた。
 星新一のSF世界へ。撮影ができるボッコちゃんコーナー、パチりと2、3枚撮る。
SF雑誌「宇宙塵」の集まり風景再現コーナー(そば屋の2階)、各種下書きと原稿、小さい字でノートにびっしり、虫眼鏡で見ないと読めないほどだ。星新一の創作過程、星新一の著作の挿絵を描いた真鍋博や和田誠の装画の数々、星新一の日記、SF雑誌「空飛ぶ円盤」、「宇宙塵」、「宇宙機」、下書きや原稿を丸いオブジェに閉じ込め、異空間を遊ぶ星新一ワールド、ショート・ショートの部屋。不思議な異空間だ。音で聴く講演会の話、創作の秘密、ショート・ショートひらめきの法則、異質な2つのものを結びつけること→アイデアと。最後は未来コーナー、娘の文章や孫の絵など。12時12分〜13時44分の1時間32分、たっぷり星新一ワールドを堪能できた。黄色と青の色調で統一されたこの企画展では、主人公星新一の精悍な顔が至るところに覗け、びっしり詰まった下書きの文字が流星群に見え、娘たちの文章や孫の絵にもファンタジーを感じ、何らかの形で継承されていることを実感した。もちろん日本のSF史を具体的に覗けたのも収穫だ。
 企画展記念レクチャーも開催されていて、星新一を読むヒント―「ヒューマノイドロボットって何?」というタイトルで早大の高西淳夫先生が講演。これは正真正銘ロボット屋の話、だが星新一展を観賞した筆者にはいきなり科学の最先端の話にはサプライズ。もう少し流れを考えても良さそうなものとの印象を受けた。それでもほぼ満席、100名弱はいたか。しかし、それは早合点だった。関連イベント8回の一つとして企画されたものでパンフレットを紐解けば解かるのだ。5月30日の星薬科大学三澤美和教授の「星新一の父・星一の仕事と生涯」、「星新一ゆかりの地を歩く―星薬科大学ほか」も面白そうだ。最後に「星新一展」の図録を購入(1200円)。世田谷文学館館長の菅野昭正氏の文章をはじめ、本文80ページの贅沢な図録だ。図版、家族、SF作家の誕生、ショート・ショートの話、描かれた星作品それに年譜や著作リストなどの資料編。筒井康隆の星語録作成の話や星新一の別荘で主自身がドビッシーの音楽を聴いているうちに感激して泣き出した、タモリの話などエピソードも面白い。その中で娘のサリナさんが英訳した『ボッコちゃん』の冒頭を引用してみたい。

 The robotic woman was very well made. Being artificial,it was possible to make it look as beautiful as the creator wished. Indeed,the robot had a look of perfection. Its design incorporated all the elements of a beautiful woman. This included arrogance because, of course, conceit is one of the attributes of a beautiful woman.

 そのロボットは、うまくできていた。女のロボットだった。人工的なものだから、いくらでも美人につくれた。あらゆる美人の要素をとり入れたので、完全な美人ができあがった。もっとも、少しつんとしていた。だが、つんとしていることは、美人の条件なのだった。

星新一語録。
寓話作家。思いつきとは異質なものどうしの新しい組み合わせ。アイデアとは育てるもの、雑多な平凡な思いつきを整理し、選択し手を加えることに精神を集中してつづれば、なにかかが出てくるのは確実である。要素分解共鳴結合。会社をつぶした男に、まともな会社がやとってくれるわけがない。あこがれて作家になったわけではない。ほかの人と違う点だがやむえなかったのだ。背水の陣であったが。

ペーソスとユーモアの人、想像力の賜物、それをうまく書き出す技術力の人、しかも分かりやすく短く―。科学の眼を持った文学者だった。

筆者感想。過去・現在・未来をテーマにした星新一ワールドのこの企画展は、つい最近亡くなった作家井上ひさしのペーソスとユーモアとは少し違った味わいがある。DRYとWET、SFとDRAMAの違いだろうか。二人ともわかりやすく書こうとした作家には違いない。そのために凌ぎを削った。根っこは人間への限りない優しさだった。

斬新なパンフレットとチケットだが黄色が目立つこと。

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 ついでに廬花亘春園へ出向いた。『不如帰』の著者でトルストイとも親交があった徳富廬花の旧居だ。戦後妻が寄贈した。兄は徳富蘇峰。蘆花記念館(蘆花の『不如帰』は当時大ベストセラーで50万部以上の売れ行き、英語、ドイツ語、スペイン語、スウェーデン語やフィンランド語にまで翻訳されていたことが647_2ここに足を運べば分かる。また、世界一周旅行に蘆花も出かけたらしい。それよりこの出版に纏わる大正時代の版元の意気込みが凄い。トルストイの廬花宛ての手紙も展示されている)、愛子夫人居宅、母屋、梅花書屋、秋水書院それに竹林、初夏の匂いがたっぷりの廬花亘春園(あとで気付いたことだが、実はもっと広くて夫妻の墓地、自然観察資料館、花の丘、藤棚などがあるらしい)。
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 201005151647000201005151700001帰り際に芦花公園駅の踏切を渡って商店街にあるニューヨークのシェフ上がりのアメリカ人経営の「アーバンラーメン」に寄って醤油ラーメン(800円)を食した。二度目。今人気のラーメン店である。駅に戻って電車を待っていると、近くであの外人のやっているラーメン店はどう、という中年夫婦の会話が聞こえた。

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