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2010/04/06

超人の面白創作 携帯連載小説 ミルクプラント  62

 ここに色褪せた一枚の写真がある。たまたまナオミの赤い玉手箱の中から出て来たものだ。この箱には和紙の端仕切れにカタカナ、ひらがなそして漢字が少し混じった母親が鉛筆で書いた自筆メモ、父親がボールペンで書いた几帳面な手紙、外国からの手紙類、有名な詩人がB文庫にいたときに撮った写真とサインなどが入っていた。恐らくナオミが田舎から持ってきたものも含まれているはずだ。そこにはナオミが忘れかけていたミルクプラントの周辺が映し出されていた。そうか、こんな色だったのかとナオミは改めてその写真を見入った。屋根近くの色褪せた黄色と青色、その下が斜めにひび割れが入ったコンクリートの壁―ナオミたちがこの壁にぶつけてよくキャッチボールをしていた―は、大きな冷蔵庫・冷凍庫がある壁だ。残念ながらミルクプラントのボイラー室の外側辺りから撮ったらしく、ミルクプラントの玄関は写っていない。例のツバメの巣も見られない。代わりに大きな自家用車が中央に鎮座している。叔父の車だ。叔父はその頃手広く青果業を中心に食料品店を営んでいた。
 この歴史の証言のような一枚の写真は、ミルクプラントの栄枯盛衰を無言のうちに語っている。そこに働く家族のドラマもまた、ある時期の人間の営みを映し出している。ミルクプラントは単なる牛乳処理工場ではなかった。ナオミの家族の物語は、ある意味で家族の結束の展開図だ。今や否、当時もこの結束の展開図は有意義に描かれていたのだろうか―。
 父の事業がせめてあと10年持続したなら、いろいろと家族の結束の展開が新たな糸口を見出だしたに違いない。

この差は何だろう―

 ナオミはいつの間にか熱くてボイラー室から外に出ていた。外の空気がとても美味しく感じられた。

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