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2010/04/04

超人の面白創作 携帯連載小説 ミルクプラント 61

 ナオミはT男に山案内されたことがある。この人の良さそうな男は、母親の実家を継いでいた。
 H山の標高は約900メートル、どのルートから登るかは場所によって違っていた。そのときは正常ルートだったはずだ。つい一人で登れると考えていたナオミは、途中までは良かったが、登山口近くの梨畑の脇の道路の先は笹藪に覆われたところで、右に行くか左に行くか迷ってしまったのだ。そんなとき水先案内人のT男は竹の棒を持ちながら、こちらだと案内してくれた。面白かったのは、笹藪では一面同じ情景なので隠れてしまえば一瞬人影を見失ないがち、どうするかって、笹藪を除けてやや高台にぽつんと立つのだ。これでどこにいるか判るのだった。H山の真下は石ころだらけ、頂上は大きな岩が二つ、どちらに登るか思案していたら、こちらだとまともやT男の声。えっ、見ただけでここをよじ登るのかと思うと恐怖感が過った。急勾配のなか、正面左手の岩に登り着いた。狭い、足場を外したら今にも落ちそうだ。もう一つの岩には足を大股にして渡ればいいが、下を見れば岩肌が丸見え、恐怖感が増した。中央付近に恐る恐る歩み寄った。標高900メートルの頂上にはすでに10数人がいた。360度全景のパノラマ、後ろにはA山脈の山々だ。秋の木々の色付き見事で絶景だった。だから登山はその達成感と頂上から見渡す眺望が止められない、だから人は山に登るのだ。
 風がやや強くなってきた。おにぎりを頬張っていたら、T男の声が近くで聞こえた。

帰るよ。

 そのT男はいつだったか理由は単純だったはずだが、誰も知らないうちに一人で逝ってしまった。忽然とこの世から消えた。それから数年後、T男の姉も海に身を投げたのだった。この山間には魔物が棲んでいたのか、あるいは血のいたずらなのかナオミにはただ人生の儚さ、無常を思うだけだった。

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