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2009/05/10

クロカル超人が行く 109 第3回大江健三郎賞受賞 大江健三郎氏×安藤礼二氏公開対談

クロカル超人が行く
 ここ何日かは天気が悪かったからか、快晴で夏日の昨日は特に、太陽が眩しかった。そんな暑い日に講談社社内ホールで開催された「第3回大江健三郎賞 大江健三郎氏と受賞者・安藤礼二氏との公開対談」を聴きに音羽まで出かけた。実は雑誌「群像」5月号にこの対談の開催日が載っていて応募して当選したのだ。
 受賞者安藤礼二氏は40才前半の多摩美大の先生で文芸評論家。筆者的には営業パーソン風の、どこかで見たことがあるような、健康的で庶民的な少壮学者の風貌かつ飾らない性格の様子(イメージ的には青白い弱々しい男性と思っていたが)。他方、大御所大江健三郎氏は今年73才、白髪の真面目な知識人といった感じ。最近自分の父親を題材にした『水死』を上梓し、その宣伝も忘れないノーベル賞作家だ。対談は講談社社内ホールで午後3時から始まったが、聴衆は優に500人は越えていて満員、この作家の人気のほどが伺える。その中には多摩美大の学生100人も聴きに来ていたのだ。安藤礼二氏が教えている学生なのだろう。100人も来るなんて、何か魂胆がある?授業の一環、あるいは必修?とちょっと邪推してしまった。
冒頭大江氏は対談前に自分の苦い体験をユーモアを交えて披露した。同じ時期に文壇にデビューした評論家江藤淳と講談社の雑誌「群像」の対談(今日みたいな対談)で意見が対立、それ以後50年間没交渉だった由。
安藤礼二氏の『光の曼陀羅 日本文学論』は、折口信夫の死者の書を扱った評論だが、右翼思想に傾き兼ない危ないものもあるので注意して読んでほしいことと作者にも以前のような不幸な事態に陥らないよう祈りたいとユーモアを交えて話された。
 対談の様子を簡単にメモから書き出してみよう。
 まずは大江氏が自分の幼少期の体験からずっと引きずってきた問題を解決に導いてくれた本がこの『光の曼陀羅』だと語り、その体験を語り始めた。四国の山奥で育った大江少年は、製紙の材料である植物栽培をしそれを大阪の造幣局に納入して生計を立てていた父親に漢字の間違いを指摘、怒られると思い母親の助言で家の裏から逃げ出したエピソードを語る。余程厳格な父親だったらしく、10回位しかまともに話したことがなかったと大江氏は半ば笑いながら言う。ある収穫期を終えて一段落したときの家での場面。漢字の木を三つ書く「森」という字を二つ続けると森森、読みはシンシンだが意味は海のひろがりの様子と学者の方が書いていたと父。わしらのような森のなかの人間には、森のひろがりは海のようであるから云々と父親が言っていたのを聞いて、それは水を三つ書いて、ビョウと読み、同じ漢字を重ねてビョウビョウと読むんですと大江少年が言ったら、父親は不機嫌になったらしい。それ以来父親がどんな本(雑誌論文)を読んでいたのかずっと気になっていたと大江氏は語る。しかもその出来事は、後に母親から面白い子どもだと聞かされたことと対をなして記憶に長く残っていたという。最近それが安藤礼二氏が書かれた「舞台芸術」14(自宅で刊行物の郵送便整理のなかで)の折口の文章「山越しの阿弥陀蔵の画因」の引用とされているものを見出だして心がおののいたと話す。長年の疑問が氷解したのだ。「中略 熊野では、これと同じ事を、普陀落渡海と言うた。観音の浄土に往生する意味であって、淼たる海波を漕ぎゝつて至り著しく、信じてゐたのがあはれである」(雑誌「群像」5月号P.295〜P.256から引用)の"”淼淼たる海波を漕ぎのところだ。
 ところで、折口は正しくはオリグチではなく、オリクチと発音すると半ばジョークも交えて語るのを忘れない大江氏、座談の名手なのだ。


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