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2008/12/06

ある評論家の死 評論家・作家加藤周一

 今朝のBSニュースで評論家・作家の加藤周一氏の死を知った。昨日岩波新書70周年記念号の「図書」を読んでいたら(識者に印象に残った新書をアンケート調査したもの)、ある人文系の研究者が『羊の歌』を上げて、こんなに頭の良い人がいたのかと読後の衝撃を書いていた。今その雑誌と執筆者を確認したかったが(註。今日神保町の信山社に寄ってその記念号を手に入れた。そして確認、今や格差関係では第一人者の橘木俊詔同志社大学教授だった。2009年1月14日記)、偶然東京駅附近でお会いした児童文学者と科学読物を主宰している児童文学者辛島泉さん(この日が初対面、U氏のお知り合い)にあげてしまった。その加藤周一氏が多臓器不全で死去、享年89才。巨きな知性の持ち主が逝った。1942年作家中村真一郎や福永武彦らと韻律を重んじた言語的実験、マチネ・ポエティックに参画、「1946・文学的考察」で注目され、評論活動を開始。『雑種文化』やカッパブックスの『読書術』で話題に。著作は数十冊にも及ぶ。もちろん平凡社から著作集もでている戦後の一大知識人の一人だ。若い自分筆者も自伝的エッセー『羊の歌』や『続羊の歌』(いずれも岩波新書 1968年刊)を読んだ。そこには戦前戦後の知の蠢きがキラ星のように現れていた。そしてあのヒロシマの状況も医者として関わり悲惨さを目のあたりにした。かつて評論家山室静氏に生前一度だけお会いしたとき、「近代文学」は加藤周一と三島由紀夫を発見したことだと自慢げに話していたのを思い出した。2年前にまた、丸山真男関連を読んでいてその後加藤周一、木下順二、丸山真男著武田清子編『日本文化のかくれた形』を読み、加藤周一著『日本文学史序説補遺』を買い、そしてその後同じ著者の『日本文化における時間と空間』(岩波書店 2007年刊)を購入したと思ったが書棚等を探したが見あたらなかった。ひょっとしたらそう思い込んでいて購入していなかったのかもしれない。最近ではかもがわ出版から対談集が出ていてたまには立ち読みしたり新聞広告を読んだりしていた。もちろん朝日新聞の夕刊の「夕陽妄語(せきようもうご)」も読んでいたが、ここ二三年は新聞を変えたこともあってご無沙汰していたのだ。である体の文体を避ける加藤周一氏は、一見断言調に響くが明快な論理に近付ける方法を日本語にも強要していた、否実験していた、そして自ら開発定着に向けて論陣を張り続けた稀有の人なのだ。筆者はこの加藤周一氏の文体に影響を受けた者の一人である(序でに急いで付け加えれば、“来る者は拒まず、去る者は追わず”の精神もだ。日常的にはながら族のすすめも。テレビを消音にしてラジオを聴くなど)。それは日本人の持つ曖昧さを極力避け論理と感性の秩序を構築する一方、古今東西の文学や翻訳などの文化的問題に止まらず、政治的問題にもある種の見識をもってコミットしてきたことだ(ひとつには日本国憲法第九条を守る言動をみれば明らかだ)。加藤周一の評論集は今も生き続けている。そして日本の古典文学に投げかけた諸問題『日本文学史序説』、つい最近死去した筑紫哲也の編集長よりずっと前の朝日ジャーナル誌上に連載が発表された第1回目の記事とりわけタイトルの文字を鮮明に覚えている。切り抜きもし何度も読んだ。それは鮮烈だった。この知性の持ち主は平凡社の百科事典で林達夫の跡を継ぎ編集長に就任、自ら執筆も担当したことで遺憾なく発揮された。しかし日本における百科事典市場はすでに飽和状態、曲がり角に差し掛かっていて期待していたほど売れなかった。最近では日本の社会・文化の特徴そして時間・空間意識に考察を加えていたのだ。諸外国の大学で教鞭をとった経験をもつ(プリンストン大学での教え子の一人は、今年の話題の書『日本語が亡びるとき』の作者水村美苗である)、外国語の達人でもあった(作家大江健三郎氏が、2008年12月6日付朝日新聞の文化欄でアメリカ滞在中の出来事として、アメリカの音楽評論家に武満徹の音楽を魔法のように通訳していた人がいたと聞かされた。確かその人が加藤周一氏と追悼文で書いていた)。もちろん絵画や音楽など芸術にもそして中国関係にも造詣が深かった。テレビや雑誌で拝見する格好は白髪で額が大きく、眼光も鋭い。ジェスチャー交じりの鋭い切り口とのびやかな声そして溢れる知性―。こういう知性の持ち主はもう出てこないと思う。合掌。
追記。今日の朝日新聞のコラム「天声人語」は加藤周一氏の追悼文だ。(2008年12月7 日記)


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