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2008/03/08

超人の北欧演劇鑑賞 イングマール・ベルイマン作 鈴木裕美演出『ある結婚の風景』

 春の冷たい雨が降りしきる中、地下鉄都営新宿線森下駅(隅田川沿いでJR両国駅も近く、芭蕉記念館もある) A2出口から徒歩5分のところにある現代実験演劇集団、シアタープロジェクト・東京(TPT)の本拠地である小劇場『ベニサンピット』。毎日新聞3月5日付夕刊紙で取り上げられていた北欧映画の巨匠で昨年7月に亡くなったイングマール・ベルイマン作の『ある結婚の風景』の舞台をこのベイサイド小劇場で観た。英語からの翻訳・台本広田敦郎、毎日芸術賞千田是也賞を受賞した鈴木裕美(自転車キンクリート)演出、村岡希美、天宮良、鬼頭典子のキャスティング。男と女の結婚と離婚を巡る心理的葛藤を描いた衝撃の舞台だ。

 この『ある結婚の風景 SCENER UT ETT AKTENSKAP: SCENES FROM A MARRIAGE』は1981年当初はテレビドラマ用に制作された作品だが映画化もされ、また、その後俳優と共同でベルイマンプロジェクトを立ち上げその作品を舞台化、ドイツを始め多くの国で上演されてきた作品である。
その作品に惚れ込んだ実力派演出家の鈴木裕美氏が手掛けた。

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The Japan Times Weekly
3月8日号のドイツ在住のヤスコ・クボのコラムでドイツの離婚率は44.3%、日本は33.3%だが年金制度の改正など社会変化が後押しする格好で更に進みドイツ並みに近づくと書いている。因みに離婚率の一番高い国はロシア、日本で一番高い県は高知県だ。
かつてイプセン作『人形の家』は栗原小巻主演で俳優座劇場で大昔に観たし、ストリンドベリーの『令嬢ジュリー』は本で何冊か持っているが、ベルイマンはこの北欧演劇の女の自立と社会のテーマを自分のこの作品を含ませ集大成しようとした。ノラその妹ジュリーそして100年後に妹マリアンヌができたとベルイマンは1981年の「ノラ」「ジュリー」「ある結婚の風景」連続上演で語っている。ベルイマン自身牧師の家に生まれ生涯5回結婚して一人の息子と一人の娘がいる。神、死、男と女など哲学的で難解なテーマを扱ってきた映画監督・演出家だが、今回の作品「ある結婚の風景」はごく身近な結婚した夫婦関係の緊張と弛緩がテーマである。夫婦二人の討論、口論誰かのブログでは"夫婦喧嘩の形而上学"と書いてあったが、言い得て妙である。今までの映画とは違って比較的分かりやすい上に、鈴木裕美の演出で舞台にはっきりとしたリズムが感じられた。実は筆者はこの芝居を観る前に密かに会話の多いシーンが続くのではないかと想像していたのだ。
 
 観客に呼びかける「幕間劇」の導入で始まる。「上演にあたってこれからは写真・録音・携帯電話はご遠慮下さい」と鬼頭典子が舞台右下から告げる。すると同時に彼女はパルマ夫人に扮しカメラマンと模範的な結婚生活についてある夫婦にインタビューする。夫人は弁護士のマリアンヌ(村岡希美)、夫はヨハン(天宮良)だ。大学教員の夫とその夫人は子供がいて幸せそうな日常生活を送っているが、その活字になったインタビュー記事に空虚さを感じ夫婦間にすきま風が入る。そして夫の浮気を機に今までの二人の幸せな関係に皹が入り崩壊の過程を辿る。セックス、愛の確認、家族のあり方など諸々がこの二人で語られる。鬼頭典子の「ここで15分間休憩です」の宣言で一気に張り詰めていた緊張の1時間20分が解けた。

外は雨、トイレに行ってコーヒーを飲みタバコを一服すると、開演5分前で席に戻る。

 場面は妻マリアンヌが離婚届けの一片の紙切れを持参し夫ヨハンの仕事場である研究室に押しかけ文言を読んで判を押せと離婚を迫るところ。それをのらのくらり交わす夫、それを見兼ねた妻が突然怒り罵しる。夫も馬鹿げた言い分に反論次第に声荒げ罵り合い、終いには取っ組み合いの殴り合いになる。それは人間の醜い争いだが、ここには裸に晒された男と女の精神的なぶつかり合い、愛、嫉妬、憎しみ、妬み、世間体、観念、エゴ、自由、性差、思いやり、謙遜と人間の根源的なものに関わるものがマグマとなって爆発、人生は爆発だとかの有名な画家は申したが、崩壊、爽快、そうかいと言いたげな熾烈な会話の応酬があるのだ。それこそベルイマンの真骨頂だ。
やがてお互いに浮気相手を持ち何年かが過ぎたところで再会する。ベッドでユーモアも交えたいろんな会話をした後マリアンヌとヨハンは静かに寝に着く。あたかもそれは二人にリラックスした日常生活が生成されたかのような−静かな予兆を観客に委ねて。そこで約3時間の芝居は終わる。

ドキドキハラハラさせられる場面展開とメリハリの利いたシーンそれにリズムだ、それを一気に飽きさせず進ませた芝居に感心、肝心なことだ。思った以上の見応えのあった観劇である。

  役者さんはところどころトチったところもあったが、この長いセリフと振幅のある感情表現には苦労したことは容易に想像つくのだ。それを超えて観客に拍手喝采を浴びせるには稽古が全てを物語るかも知れない。ひとつ想像したのは、リブ・ウルマンたち北欧人の舞台では背が高いので観客との視線がもっと鋭角的だったか、と想像してしまうのだ。この隅田川左岸小劇場『ベニサンピット』では観客と演じている役者との距離が恐ろしいほど近いのだ。そしてその視線が交差する・・・それも楽しい。この日の観客は40人位。カップルで観に来ないでほしいほどこの芝居には現実の生々しさとある種のエネルギーが迸っている。
当初スウェーデンでテレビドラマシリーズで放映されたとき、これを観た人の間に離婚が増えたそうだ。インパクトがあるのだ。しかし最後に付加えれば、日本と欧米との家族観、倫理・道徳観、幸福感など重なるところもあるが、また、相違もあるのだ。これはベルイマン流の人間の内面を抉る洞察劇である。

外に出たら雨は上がっていた。

イングマール・ベルイマン作 鈴木裕美演出 村岡希美、天宮良、鬼頭典子出演「ある結婚の風景」は2008年3月5日〜16日までベニサンピットで上演中。

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