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2008/01/14

最近の出版事情

  新年早々の先週、出版界に激震が走った。自費出版大手の出版社新風舎と対位法を駆使したユニークなネーミングで新聞の書評欄でも企画編集のあり方などで取り上げられたほどの文芸一般書中堅出版社の草思社が倒産した。前者は2年前の2006年8月、売上がピーク時期に約53億円あったが、マスコミに事業内容の活動を批判されてつい最近では1億円に激変した。 後者の草思社も11年前には約39億円あった売上は2006年8月期で二分の一以下の約18億円規模に落ちていた。また、この年末年始の書店売上の落ち込みも確か書籍が二桁台、これは店頭小売りに異変が起きている数字かも知れない(「新文化」最新電子版参照)。
自費出版は自分史の書き方の本があるほど隆盛だが、一方でお金を払って労作を出版したにもかかわらず、書店の棚に並んでいないといったトラブルも発生していたらしい。今尚1100人に本が出ていない状態だとか。出版者の姿勢は言語道断だが、依頼する人も契約書を交わすなどして事前・事中・事後のチェックを怠らないことだ。また、草思社は、その昔徳大寺氏有恒の『間違いだらけのクルマ選び』などで知られ、最近では斉藤孝の『声を出して読みたい日本語』が話題になった。翻訳本の題名が原作とは違って付けられたりと読者の関心を引いたユニークなネーミングのつけ方で売上を延ばし注目されていた。テレビや新聞の取材も受けていたのだ。そもそもは社史やPR紙などを手掛けていた会社と聞いていたが定かではない。元大学の先生もここから新書を出していた。負債は22億円、再建が進んでいるそうだ。
 
  出版社は見込み生産で成り立つ多品種小部数の比較的規模が小さい会社が多いが、あのビルは何々先生のおかげで建ったものだと言われるくらい企画力の一発がものをいってきた業界でもある。だが、出版不況にも強いというジンクスはすでに陳腐のものとなり、それよりも不況の波が押し寄せていて衰退産業の異名もチラホラ聴こえてくる昨今である。明治、大正、昭和そして平成と日本の近現代140年に活字文化として出版社の果たした役割は大きいが(例えば、明治時代の博文館や戦前の改造社を見よ)栄枯盛衰もまた激しかった。今回の典型的な二つの出版社は一方でインターネットやブログなどの普及で一億総評論家と言われるくらい表現者が増えたことや自分史の書き方などの本もあるほど自費出版が容易になったことだ。その潜在人口に目をつけ広告宣伝で素人の書き手を募り事業を拡大していった。ここには企画の良し悪しと本の普及としての流通が省かれて、はじめに金儲けありきの商法に走ってしまったのではないのか。文化の担い手としての使命感が欠如していたのではないか。精神生活の豊かさへの希求を支援していく出版者の有様がここには何もない、ただモノの介在があるのみだったのか。

  他方、人文・社会科学系の中堅出版社の草思社は同業他社が羨むほどの快進撃を続けていた頃とは出版内容が違って読者離れが潜在的に起きていたのだろうか。比較的高額な書籍に寄与してきた人文・社会科学系出版社のものがともかく売れなくなってきていると嘆く書店員の声を聞くが、文庫や新書にその売上を大方依存している昨今の書店の低価格傾向に対する悲鳴も書店員から聞こえてくる。もはや書店の売り場は文庫や新書の洪水なのだ。これに反して店頭に行かないでも本がいち早く手に入る無店舗書店・e-bookが好調とも聞く(例えば、アマゾンドットコムを見よ)。格差拡大の傾向が顕著なのか。企画がたまたま2,3点以上当たって勢いづき好調さを維持しようとすれば、書店などの市場在庫を考慮し客観的で冷静な経営判断を重版の時に下すことによって予期せぬ大量返品を防げるということになるのだが、現実的には難しいのか。その年は順調でも翌年大量返品でおかしくなる出版社がよくあるからだ。今や新刊の寿命、サイクルは相当短くなっているのだ。そればかりが要因ではないかも知れないけれども、新聞も含めてマスコミ業界の10兆円産業−そのうち出版業界は2兆円くらい(ひところの3兆円産業から比べれば約1兆円ダウン)−はインターネットの普及で以前の規模を保つことはできないでいる。むしろ後退現象に歯止めがかからない状態だ。インターネットコンテンツがその利便性を拡大しているのだ。この勢いは止まらないだろう。と同時に世界がすごいスピードで繋がっていて瞬時に世界がリアルタイムで知れるのだ。情報はグローバリゼイション化だが、何せ深さがない。時間をかけて活字を追って味わう本の醍醐味を少子化、読書人口減、媒体変容などにかまけていないで更に充実させていくためには、知識産業はここに来て初めて知識の領域分離・融合を迎えたと考えオリジナリティを出していく産業に転換すべきだ。新年早々二つの出版社の倒産劇を読んで筆者が感じたことだ。

追記。この記事を書き終わって今朝の毎日新聞朝刊(2008年1月14日付)を捲っていたら、新風舎、草思社破綻 長引く「出版不況」深刻化、出口見えずの見出しのメディア欄の記事を見つけた。「流通に乗らぬ」状態に戻れと言う詩人で詩集出版・紫陽社社長の荒川洋治氏と「手法は以前から問題視」と訴える写真家・藤原新也氏のコメントが載っていた。新風舎の自費出版の場合賞などに落選した若い世代の写真家志望者が含まれていたり、不況のため自費出版関係にまで仕事を求めていた編集プロダクション、デザイン会社や印刷会社の顔も見えて、皮肉な出版界の現象が浮かび上がった恰好だ。
  
追記2。先程午後6時頃のFM放送のニュースによれば、私大連盟は経営破綻に陥っている大学・短大は98校に上ると発表した。学術専門出版社とりわけ人文・社会科学系の出版社にとってはまさしく大学市場の縮み現象に青色吐息だ。

追記3。今日新風舎は再建の道を断念し破産手続きを取ったと報道された(2007年1月19日)。

追記4。昨日の読売新聞社会面の記事によると、新風舎は流通していない書籍を倉庫に積み上げていたらしい。その数600万冊というから驚きを越えて呆れる。更に聞いて呆れるのは、前払金はもらっておいて売れそうにもない理由とかでそうしたそうだ。そしてこのような最悪の事態になって初めて著者にその倉庫にある書籍を買い取ってもらいたいとこの経営者は言っているらしい。出版人の見識が甚だ疑われるね。

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