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2008/01/06

超人の面白翻訳 40 携帯翻訳 『スロヴェニア人が見た不思議な国・ニッポン』余滴

  スロヴェニア人の言語学者ウヌク・ドラゴ氏(年令40歳代後半)が第二外国語の一つである英語で書いたエッセー、『スロヴェニア人が見た不思議な国・ニッポン』を携帯電話の機能を使って主に通勤電車の中や空いてる時間でやっと訳了した。英文原稿は8500語くらいだが、日本語訳では400字詰原稿用紙で約55枚もある。冗長な言語・日本語の面目躍如といったところか。39回連載で延べ約95時間くらいかかった計算だ。次に若干の訳者あとがきを記そう。
 
  これは全く一個人がボランティアでした仕事である。それにしてもその原作者の"見者の精神"には目を見張るものがある。よく観察していて、亡くなった小田実の名著『何でも見てやろう』の精神に通じるものがある。また、初めての東洋の国日本の古都・京都の街の晩秋から春先にかけての日常を正直に自分の眼で確かめながら書いている。ここには小国だがヨーロッパ大陸の精神を受け継いだ知識人の醒めた言辞が心地よい言葉、何と言ったら良いか、そう、"歩き言葉"で書かれていてその好奇心の塊を訳者は想った。

 英文はその語彙そのフレーズそしてその構造にイギリス英語の匂いがぷんぷんしていて、些かアメリカ英語に慣れた訳者は多少の確認が必要だったことを素直に認めたい。と同時に、シンタックスにおいてはドイツ語の影響なども多少見られた。また、知覚動詞、助動詞、接続詞などの使い方と分詞構文、関係代名詞の使い方などにも、これは言語に敏感な言語学者の文章だから当然と言えば当然だが厳密的な反映があった。と同時に、文章や一部の単語に著者の偏愛も発見できた。また、急いでつけ加えたいが、時制の問題は厄介である。普通過去・完了形を表す日本語の助動詞「た」は必ずしもその時制だけの機能とは言い切れない品詞だ。と同時に、英語、仏語、独語、瑞語や露語などのヨーロッパ諸語の時制とは必ずしも一致しない言語体系が日本語の膠着語と言われている言語だ。だから軽いエッセーの類でも欧文の構造、すなわちシンタックスはしっかりしていて、その強固な文構造を柔らかな日本語文に移し変える時にそれなりの注意が必然的に払われなければない。そうでなければ言語感覚が鈍く躍動感のない、ぶっきらぼうな日本語文に墜してしまうのだ。原文が過去・完了形でも入子構造の日本語は末尾を過去形という言辞に拘泥しなくともいい。その時のコンテキストを考えて臨機応変に対応すれば良いだろう。もう一つは文体の問題があってその形式に一定の書き手の個性を読み取るのだ。主語の省略もそのひとつ。はじめから日本語には主語は存在しないという考え方(三上章の文法論など)も最近では受け入れられて来ているが、ここでは言及しない。更につけ加えて言えば、欧文の特に抽象名詞を具体的な日本語に変換する作業は訳者の語学力や読解力が問われるところだが、その形と意味を理解しながら言葉の加除を時どき施して微調整の作業を行うこと、そこには漢語と和語それにひらがななどの活用が必須だ。また、欧文の文章の区切りが必ずしも日本語のそれと一致しているわけでもないことも考慮に入れたい。

日本語は主体中心の言語世界を形成する言葉かも知れないが(文化のコードはよく言われることだが「察し」の文化それに「恥」の文化。最近はこの傾向もグロバリゼイションの波に飲み込まれているが)、ともかく曖昧な言葉のようだ。かつて毎日新聞の余禄欄だったと思うが、文豪・川端康成はその小説で確か「おもう」という言葉が10通り以上の意味をただひとつで書き分けていて(但しその前後関係の状況語がその語の意味を決定していることがしばしば見られる)、最近亡くなった翻訳家・サイデンステッカー氏を悩ましたと書いていたが、その逆はこのエッセーにも現れていた。

  果たして誤訳は起こりえるか。この問題の解決には「翻訳は裏切り者である」や「翻訳は腹話術に似ている」とか、直訳、意訳、創訳とこの分野で語られている夥しい本や雑誌それに論文があるが、最近では『星の王子様』の訳例が象徴的だが、厳密な訳業の上で文化の翻訳が求められて当然だろう(オリジナル文は普通は翻訳者自身は書いていないのは自明なのだから)。最後的には原著者の魂が乗り移るくらいの訳ができたら本望だ。それまでは日々葛藤の連続と勉強の日々が続き終わりはないのである。ま、言語感覚、センスというものもあるが・・・。ということで、筆者も誤りは見つけ次第訂正することでご勘弁願いたい。そう、異文化接触、体験、cross-culturalな視点などの論評は紙数が尽きたので、次回に。


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