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2007/12/09

学術先端情報-学術mini情報誌「PS Journal」最新号の紹介 7

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2007年第11号 特集:研究者の現在Ⅹ 人文・社会科学の、パースペクティブ 3

■中国経済はなぜ成長したか
桃山学院大学教授 厳善平
■戦後の郊外住宅都市における小売商業の展開と「お買い物バス」の運行
神戸学院大学教授 廣田誠
■「地域に根ざす」経営史研究者としての一あり方
長岡大学准教授 松本和明
■史料の保存や公開、あるいは戦争の労苦継承や慰籍事業に関する雑感
東京女子大学教授 黒沢文貴
■移民関係書誌から考えること
国立国会図書館新聞課長 神繁司
■ドイツの逆襲-データに基づく教育計画
玉川大学准教授 坂野慎二
■「オカルト」の現在
横浜国立大学教授 一柳廣孝

中国経済はなぜ成長したか
桃山学院大学 厳 善平

  ここ30年近くの中国では、年平均9%以上の経済成長が遂げられた。1人当たり総生産で見るなら、中国は日本の約20分の1と依然発展途上国のままである。しかし、国を基本単位として国際比較すれば、中国の国内総生産は米国、日本、ドイツに次ぐ世界第4位(05年)、輸出入総額は日本を抜いて世界第3位(04年)、そして、外貨準備高は世界1位(06年)と、多くの経済指標が世界のトップクラスに躍り出ている。世界一の人口を抱える途上国でありながら、比較的短い期間でこれだけの実績を挙げたのは経済史上前例のないことである。その意味で、中国の経済発展は概ね成功したといことができよう。
  中国の経済成長をどのように見るべきか。ここでは、日本などの経済発展の経験を参考に、または経済学の考え方を援用しながら、中国経済の成長要因を検討してみる。
  成長会計法は要素還元論の考えに基づいた経済分析の手法として広く知られる。この分析法では、経済成長をもたらす基本要素として資本、労働と土地があり、この三要素の投入増大に還元できない残差を総要素生産性(Total Factor Productivity、TFP)と呼ぶ。このTFPの中身は資本に体化された技術や労働者が学校教育で習得した知識(人的資本)等を含むものであり、定量的にそれを分解することは難しいが、非常に有用な分析概念である。
成長会計法に即して中国経済の成長要因を説明するなら、三つの側面からアプローチすることができる。①物的投資の拡大、②労働投入の増加、③総要素生産性の向上。
物的投資は企業の固定資本投資、社会インフラ整備などと多岐にわたるが、投資の原資は国内の貯蓄と外国から調達される。改革開放以降の中国ではきわめて高い国内貯蓄率、中でも家計貯蓄率(05年に3割近く)が見られた。主要な理由として、①高成長に伴う収入増、②1人っ子政策で出生率が低下し14歳未満人口の割合が低く養育費や教育費が少ないこと、③65歳以上の高齢者比率が低く介護、医療にかかる費用が少ないこと、社会保障制度の未確立で老後のための貯蓄が多いことが挙げられる。他方、外資とくに外国の民間企業による直接投資(FDI)が急増し、設備投資等の資金調達が潤沢にできた。投資増→雇用増→収入増→貯蓄増→投資増という循環構造が形成されている。
  労働投入の増大も経済成長に寄与した。新中国成立後のベビーブーム、1970年代以降の人口抑制政策の施行によって、中国は改革開放とほぼ同じ時期に莫大な人口ボーナス(出生率の低下に伴う生産年齢人口割合の上昇が経済成長を促進すること)を享受してきた。15歳~64歳の生産年齢人口が急増したため、豊富で安い労働力が供給され続けただけでなく、社会全体としても所得が消費を上回り、蓄積の多い状況が形成されている。
  総要素生産性の向上も高度成長に大きく貢献した。ここでは、それを技術進歩と人的資本の蓄積に分けて考えよう。①対中投資の外資企業が急増し、多くの優れた技術が資本と共に導入されている。②中国科学院、大学を中心に政府主導下の研究開発が進められた。産学連携も早い段階から実施されている。後発国がゆえに、中国は先進国で開発された多くの技術を短い時間、少ない費用で吸収、消化している。③人的資本の形成でも驚嘆に値するものがある。小中高学校の普及促進、大学教育とりわけ理系重視の学科設置、カリキュラム編成によって多くの産業労働者、技術者が養成されている。④国費留学生を計画的に派遣したことで中国と世界との距離が縮められた。生産年齢人口の増加と共に彼らのもつ人的資本の蓄積があってこそ、世界工場としての中国が成り立ったのであろう。
  諸要素が結合し経済の成長に結びついたのは、経済発展の初期条件、政府の能力、そしてより大きな国際環境とも深く関係する。①毛沢東時代の重工業化戦略が改革開放時代の市場化改革の土台を築き上げたことは否定できない事実である。②社会秩序を維持し、教育・研究開発等を推進するために政府の統治能力が問われる。共産党による専制の政治体制ではあるが、任期制の導入、集団指導体制の確立、意思決定プロセスの科学化など絶えずに進化し続ける共産党政権の中身を見逃しては本質が把握できなくなる。安定―改革―発展という三角形の関係を最も熟知しているのは中国の為政者である。③ここ30年間、中国の周辺で大きな紛争はなかった。中国は世界平和の最大の受益者である。
  中国経済はどこまで成長できるか。長期的に経済成長を制約する要素として、人口、食糧、環境、資源が考えられるが、中国では人口増加およびそれに伴う食糧の需要拡大は大きな問題にならない見通しだ。環境問題についても技術進歩や経済的手段でもってある程度解決できるとされている。石油などの需要増については、利用効率の改善で対応できる部分は多く、技術進歩による代用エネルギーの開発も不可能ではないと言われている。
  以上は経済発展の光ばかりだが、陰がないわけではない。深刻化しつつある環境破壊、都市と農村の巨大な格差、腐敗の蔓延、等など。これらすべては中国の中でも認識され議論されている。ただし、発展なくして解決の望めないものも多く含まれている。
  強大な中国の出現は日本にとってもチャンスだと近年認識されつつあるが、気持ちはより複雑だろう。置いて行かれるのではないかと。ところが、国民1人当たりの所得水準は両国間に巨大な格差が存在する。日本はもっと自信をもって成長する中国と付き合ってよい。これからは「戦略的互恵関係」の構築に向かって共に努力していくべき時代である。
この他の小論はこちら→「img005.pdf」をダウンロード

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