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2007/08/10

超人の創作・小説 『風に魅せられて』 2

                   風に魅せられて
              
                        2
           

 そこはフィフスアベニューの48丁目付近にあった。スコット・フッジェラルドやヘミングウェイの本を何冊も出版した版元でもある老舗のS書店。ルネッサンス様式の建物は1913年に造られ、ガラス張りのファザ―ドを持ち、アーチ型の天井に支えられている。ストックは十万冊以上、特にアートとフィクションが充実している。入口にはその記念のプレートが貼られている。ナオミはそこの中二階に上がり、天井まで届きそうな本棚とそこに置かれた装丁が眩しいデザインの本を取り出しては椅子に腰掛けて時間を潰していた。
何を思ったのかナオミは階下に降りてレジに行った。
「あの―、アメリカの現代詩の本はありませんか」
ナオミは思いきって髪の長い女の店員に尋ねてみた。
「少しお待ちください」
その店員はコンピューターの端末を動かし始めた。
「この辺にあるわ」
差し出された端末用の用紙に書かれていた文字群を眺め、
ナオミは低い声で言った。
「はい、これを下さい」
するとその店員は棚からその本を取り出してきた。
350ページ足らずのペーパーバックだ。まだ新しい。
「いくらですか」
「8ドル25セントです」
レジの音がけたたましく鳴った。
茶色い表紙にアメリカ現代詩アンソロジー・1986年と書かれていた。
持つ手の感触がよかった。ナオミは自分の手が自然にその本のページを捲っているのを感じていた。まあたらしい紙のにおいを呼び込みながらー。

この19世紀半ば創業のS書店はいろんな作家を輩出した質の高い出版社兼書店だが、伝え聞くところによると、このあと起こるメディア コングリマットや書店再編劇の渦に巻き込まれバーンズ&ノーブル社の手に渡ったらしい。アーチ型で天井の高いところ、一階の書棚のユニークな配置、中二階の空間そして梯子でよじ登って目的の本を手にする、ちょっと知的探検の味わいもある高い棚、ここには空間がうまく演出された古き良き時代の優雅なにおいがある。

ナオミはペーパーバック購入後もしばらく店内をあちこち徘徊していた。

「日本にもこんな書店があったらなあ」
いつの間にかナオミは独り言を言っていた。

クリスマスシーズンが終わったニューヨークは一時の華やいだ雰囲気はないが、セントラルパークあたりの上から射す光りが歩く人の影をつくっていた。
ナオミは外に出た。

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