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2007/07/25

超人の面白読書 28 四方田犬彦著『先生とわたし』 3 

同じく由良君美の高弟の一人、前述の高田宏は賛辞とも嫉妬とも取れる熱い思いを自分のコラムで書いている。四方田犬彦はもう60冊以上は書いていてアクチュアル、特に『モロッコ流謫』、『月島物語』の評伝を絶賛した後、本書を著者の自伝『ハイスクール 1968』に続く「自伝」第二弾と位置づけている。しかしだ、この高田宏もネットで見たら48冊、凄いわ、そのジャンル超え、まさに師・由良君美以上かもしれない。自分のコラムでも書いているが、助手時代の57000冊のタイプ打ちによるカード化の作業はまさに狂気の沙汰、1週間のうち1日位しか寝なかったと書いていた。「魔学」だね。このストックがあるかー。この人も弟子の一人、最近では新聞の書評欄で健筆を奮っている青山学院大学の富山太圭夫の研究室をほんの少し覗かせてもらう機会があったが、これもまた凄いわ、洋書の渦、その合間から顔を出していた。いずれも弟子は活躍中だ。ナルホド。
本文でも出てくるがextraterritorial、deconstructionの訳を「脱領域」、「脱構築」と独創的な訳語を当てたことだけでも由良君美は、人文・社会科学の新たな視座を拓いた先駆者として賛同者をたくさん輩出したが、筆者も当時魅せられた一人だ。何度か辞書なども引いた記憶があるし関連書はかなり無理して買い揃えた。本当に久しぶりに『バベルの後に』(原著:After Babel)の分厚い原書を引っ張りだしたところ多少読んだ形跡はあるみたい。それっきり読み終えた形跡なし、もちろん数ヵ国に通じたジョージ・スタイナーには正直歯が立たなかったのだ。密かに由良君美の翻訳が出るのを待っていたのかもしれない。筆者も多少なりともフォローしていたのだから・・・。また、高山は久保覚という触媒者に助けられて由良君美は青土社、せりか書房、牧神社や思索社などに企画を持ち込んだりしてエディトリアルな面でも時代の寵児だったと回想している。四方田には取材を受けたと言って質問の巧みさとメモの要領良さに感心している。ここには60才の等身大の高田宏のハートがあるように思える。そして周辺にいたもう一人、アカデミックではなく民間に入った小林龍生の感想は些か違っていて冷やかだ。
さて、一通り弟子巡回はこれで終了だ。それにしてもキラ星、秀才揃い、恐れ入りました!
四方田犬彦の本に急いで戻ろう。ここには師・由良君美の生い立ちや背景をたどることで、特に苦学して哲学者になり、神道の家柄故考古学に多大な関心を寄せ自著も書き上げた、保守思想の持ち主、父・哲次(ドイツの哲学者・フッサールの現象学の紹介者。哲学者・西田幾太郎、三木清それに作家・横光利一とは親友だった)を追うことで、また、母方の曾祖父・吉田賢輔が慶應大学の創設者・福澤諭吉と親交のあった人まで緻密に調べ上げて自分がゼミ時代に師・由良君美から聴いた数々の謎を氷解していく。その巧みなまでの文章のうねりを織り交ぜながら。筆者は先に作家・星新一の大作評伝を読んだばかりだがこれまた、のめり込んで真夜中読書に耽ってしまった。これも悲しい物語なのだった。やれブレイクだ、やれダンテにイギリスをはじめヨーロッパの新思潮といろいろと知的装置は施されてはいるが。由良君美の精悍なダンディイズムにはこんな背景があったのかと驚かされる。由良君美自身は東大を受験して失敗、学習院大学で哲学と英文学を修め、大学院は慶応大学の西脇順三郎のゼミに入る。そのゼミには文芸評論家になる前の江藤淳こと江頭淳夫もいたが、ジャーナリズム世界を巧みに遊泳していたため巨匠・西脇順三郎から嫌われていたという。このことは著者・四方田犬彦の就職を巡って師・由良君美の言葉が如実に物語っている(本文P.141〜P.143)。著者はこの事実を大分後になって知ったらしい。〈この項続く〉

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