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2007/05/06

超人のちょっとした面白雑誌調査 雑誌「暮らしの手帖」

図書館から借り出した雑誌が長らく手元に置いたままになっている。早く返せと図書館から催促もきている雑誌だ。創刊号から約10年刻みの『暮らし手帖』バックナンバー7冊である(ほとんど合本分)。1948年(昭和23年)創刊から1994年(平成6年夏号)の分だ。関心のある雑誌の調査・分析をしてみようと、ある会社のある部署の活性化のために筆者が個人的にアイデアをだしたのだ。その部署の人間たちと筆者も関心のある共通のもの(これがなかなかむつかしい)を題材にして現状打破を図ろうとする試みで、現実に役立つ良いヒントを引き出そうと考えたのだ。誰でも分かっている健全と言われている雑誌の栄枯盛衰から学ぼうというヤボな企みでもある。そして締め切り期限ギリギリのところで書き始めている。

これは あなたの手帖です

いろいろなことが ここには書きつけてある

この中の どれか せめて一つ二つは

すぐ今日 あなたの暮らしに役立ち

せめて どれか もう一つ二つは

すぐに役に立たないように見えても

やがて こころの底ふかく沈んで

いつしか あなたの暮らし方を変えてしまう

そんなふうな

これはあなたの暮らしの手帖です

「暮らしの手帖」は大橋鎭子と花森安治よって昭和23年9月に東京銀座で創刊した。これは創刊2号の花森安治の生活革命宣言とも受け取れる文章である。これがこの雑誌の哲学であり、全てはここから始まりここで終わる。新しい婦人の日常生活革命である。女性の生き方を変えたい、だから創刊号から何年かは"美しい"暮らしの手帖になっている。創刊号Img124の表紙は手作り感のある字体、小物などがさりげなく置いてある女性の部屋、A4変形判、96ページで定価、110円(季刊)。広告なし(企業に媚びない一貫した姿勢を貫くためで最近号まで広告はない)。執筆者は佐多稲子、扇谷正造、中里恒子、田宮寅彦、川端康成、戸板康二、など40名。実用的なものの工夫に溢れているが、2007年の現時点から照射したとき、小物入れ、髪形、直線裁ちのデザインから始まって指人形の作り方、服飾の読本と当時の世相、感性というかセンスが浮かび上がってきて斬新さがある。時代の移り変わりで変わって行くものと変わらないものとが如実に現れている。サザエさんの髪型はこの当時の流行だった ? 筆者は服飾 、デザイン、ファッションには疎いが関心はある。創刊号のあとがきは約1430字、むつかしい漢字はほとんどなく、むしろひらがなで平易に書かれているが、メッセージは明確である。むつかしい議論やもったいぶったエッセーは載せない、売れるはずはないが一冊でも売れてほしいという文章からは編集者の複雑な心情吐露が窺える。戸板康二の歌舞伎ダイジェスト、舞台装置家、吉田謙吉のすまゐのたのしみ(一畳から六畳まで具体的に書かれている)が面白い。第2号のあとがきでは写真をもっとの読者の声に応えた形でページを倍にした話、約10年後の1959年(昭和34年)、第50号は表紙のレイアウトも変わり、ページ数も250ぺージに増えて、定価160円(年5回刊行)。あとがきで部数は50万部を昭和32年1月に超え、雑誌作りとは一つの流れを作っていくことだと花森安治は言っている。50号で75万部、創刊時7人が22人に増えたスタッフそして大橋鎭子が「独創的な作り方」でアメリカのペアレンツ賞を外国人で初めて受賞した話などが盛り込まれている。ちょうど手元に昭和24年〜昭和31年頃までのバックナンバーがないので何とも言えないのだが、恐らくはこの創刊3年後〜7、8、9、10年後がこの雑誌の推移を見る大事な過程の一つだろう。朝鮮戦争の特需、もはや戦後ではない昭和30年、それは太陽族も生まれて明るい時代の兆しが見えた時代と符合する。このとき生活様式も変化したのである。『暮らしの手帖』は時代をとらえ急激に部数を伸ばしたのだ。
この50号では暮らし、すまい、料理・食べもの、工夫・工作、買い物、こども、健康と分野が分かれている。小児科医の松田道雄、数学者の矢野健太郎の文章も入る。第49号で創刊号から揃えて下さいと言っていて次の号の第50号ではバックナンバーを絶版にして下さいと書く。暮らしの速さで変わってしまい役立たないのが理由である。だからバックナンバーには〜世紀と節目の号から付いているのだ。

11年後の1969年(昭和44年春)第100号Img125の表紙は記念号とあって既刊雑誌の表紙を配した真ん中に100の数字入れて金色の表紙で飾る。ページ数229ページ、広告ページ7ページ、定価260円。この雑誌の目玉ページの商品テストが導入されて11年目、その意義を20ページにわたって具体的に示す。良質な読者の獲得、筆を曲げない編集方針、編集者雑巾論(編集者は何年かやっていると、チエのほうがスリ切れてくるから、雑巾と同じで、適当な頃あいをみて、新しいのと取りかえるのがよい)の意義申し立て、職人的な才能を要求する等々自信のほどをあとがきに記す。花森安治は職人的編集者と記しているが、編集仲間は彼の徹底したこの姿勢にときに物が飛んできたり、怒鳴られたりと大変だったと社長だった大橋鎭子は、いつだったかの毎日新聞のインタビューに応えていた。暮らしの手帖を通じて見た戦後の3年間、なにもなかったあの頃という写真と文章、小品を集めた雑記張欄、おべんとうなどを掲載。

1977年(昭和52年)第150号、総ページ197ページ、定価520円(年6回刊行)、1986年(昭和61年)第200号、総ページ195ページ、定価700円、2000年(平成12年)、総ページ204ページ、定価900円、2007年春(平成19年4月)、総ページ194ページ、定価900円(この最新号2007年春号は書店で購入)。1970年代に筆者は六本木にあった暮らしの手帖社を尋ねている。玄関が透明ガラスでオフィスは細長かった。買切商売で売ってやるといった態度だった。この会社の印象が多少悪かったことを記憶している。

花森安治から編集長が松浦弥太郎へ。これは新聞でも賑わして話題になったが、花森が言う初期の良質な読者が高齢化し段々と読者の数が減っていて部数が落ち込み、再構築に迎えた40代の人に新生暮らしの手帖を託した。すでに花森安治は鬼籍。最新号2007年春号(平成19年4月)Img126_1のあとがきで松浦新編集長は、開拓の仕事と題して欲することを自由に試みる正直さと強さを持ち読者の声を糧に歩む、そしてていねいにと書き記している。これは筆者には伝統と意識革命と読み取れる。最新号を見ると表紙の字体も変わり、文字とイラストの割合も変わって、以前よりは若い層を狙っているなとすぐ分る明るい表紙になっている。花森安治のあの有名なテーゼ、「これは あなたの手帖です・・・」の宣言はそのままだ。新しく号毎にテーマが掲げられ、今号は「工夫と発案」。紙質も白っぽく、光沢のあるアート紙ではなく以前より軽い。レイアウトもそう変わっていないように見えるが、ところどころ色合い、段組などデザインが今風に変わっている。色が鮮やか、書き手も変わり、ざっと読んだところオシャレに変身したようだ。買い物案内のページなど一歩現代の日常を切り取ったテーマへ、分りやすくやわらかくなったということもあるが、一番変化したところは広告のページかも知れない。通販のカタログよろしく仕掛けが施されている。いつの間にかステータスになりブランド化して一種の胡坐をかく存在になっしまっていて内容の切れ、濃さ、スマートさが失われ、こんなはずではないとの傲慢さが徐々に読者離れを引き起こしたと推測する。カリスマ性の神通力が弱まっていたことも一因だろうか。ターゲットが見えなくなってきた、つまり時代精神とズレてしまったことをこの雑誌は痛いほど味わったのではないか。変化の激しい現代がその高らかな創刊の生活革命の言辞を維持できず形骸化の謗りを免れず走ってしまっていたというのが素人の筆者の見解である。だから新編集長は開拓の精神とそこに創意と工夫をさらに盛り込んで読者の声に耳を傾けなければ理想で終わってしまうことを感じていると思う。会社を維持させていくことはいつの時代もむつかしいことだが、やはりここは時代から謙虚に学ぶことだと思う。それが筆者の結論である。多少途中スルーしたが詳しくはまたの機会に譲りたい。

追記 筆者がこの記事を書いて9年以上が経過した。『暮らしの手帖』社 の大橋鎮子社長がNHKの朝ドラのモデルなるとはサプライズだが、朝ドラ「とと姉ちゃん」は今視聴率20%台をキープしていて大人気だ。この記事もつい最近浮上してきた。ついでに拙文を見直して訂正したところもある。(2016.7.13 記)

追記2 NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」があと少しで終了だ。平均視聴率が22%台と好調を維持、しかし、可笑しくて笑ってしまうこともしばしばだ。その一つが長年の暮らしの雑誌文化を牽引してきた功績で出版文化賞をもらうシーンで、そのテレビインタビューを受ける相手のアナンサー役が阿川弘子だった。これにはあのおばはん、朝ドラにも進出してるんだ、と思わず苦笑。役どころが良かったかは少しクエスチョンがつく。TBS土曜朝の対談番組を見ているだけに何だかフィクションなのに妙にリアル、奥深さが今一だった。“アダモちゃん”ことタレントの島崎も出ていた。雑誌編集のカメラマン役で・・・。プロデューサーの受け狙い登用と思われても仕方ないかとも(2016.9.30 記)。

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