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2006/11/24

超人の面白読書 23 外岡秀俊著『情報のさばき方 新聞記者の実践ヒント』

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10月創刊の朝日選書12冊の一つがこの『情報のさばき方』。新書乱立の昨今、またまた新聞社系の進出である。そして朝日のエースの登場らしく、情報処理の実践論が245ページあまりのこの新書で綴られている。この本のあとがきで著者が書いている評論家の立花隆氏との対談で、立花隆氏があげた四つの資質がこの本の全てを物語っている。 1 取材力 対人関係形式力 信頼される人柄 2 筆力   説得力 3 眼力  広く深く遠くを見る力 ウラ側を読む力 4 バランス感覚

さて、この本には基本原則が5本並べられている。原則1。情報力の基本はインデックス情報である。原則2。次に重要なのは自分の位置情報である。原則3。膨大な情報を管理するコツは、情報管理の方法をできるだけ簡単にすることである。原則4。情報は現場や現物にあたり、判断にあたっては常に現場におろして考える。原則5。情報発信者の意図やメディアのからくりを知り、偏り(バイアス)を取り除く。以上が著者のいう基本原則でこの本はこの原則に則り書き進んでいく。

第一章 情報をつかむ では、著者の現在の朝日新聞編集局長の立場から実際に紙面が作られる過程を2006年5月のある日を具体的に題、行数、写真、社説などの出来上がるまでを描く。これはとても分かりやすく面白かった。筆者はかつてM新聞社の編集局でアルバイトをしていたのでこの様子は容易に想像がつくが、著者も書いているようにIT時代の始まる1980年代からは様子が一変する。コンピュータの導入によって活字文化から電子、デジタル文化へ変化して行った結果、原稿を打ち込むさん孔係、その打ち込み穴あきテープ化したものを地方局との送受信によって紙面づくりをしてきた時代はコンピューターに代わられ消えたが、筆者もその時代の新聞社にお世話になった一人だ。

不要になった名刺の裏に本ならば著者名と出版社と発行年、雑誌なら誌名と発行年月日、人から聞いた話しであれば、その人の名前と電話番号などを書き込みインデックス情報とし、書き終えてしまえば処分してしまうらしい。著者は蔵書は持たないで読み終えた本などは人に差し上げるか、廃棄してしまうというのだ。それは学生時代に数千冊あった蔵書を入社が決まってそれを郷里に送ろうとしたときに、輸送のトラックから数十箱の段ボール箱が消えて、すっからかんになりむしろ本を持たないことに爽快な気分を味わった時からと、そのショッキングな過去の苦い経験を綴っている。そしてさりげなく物としての情報は捨てると書く。いま、ここにいる自分の情報が「位置情報」、その項では歴史と地理の勉強方法を披瀝する。知らない場所に行った場合、迷わず地図を手に入れバスに乗る、歴史は小学生の郷土史の副読本を読む、博物館を訪ねることなどを勧めている。多分多少は筆者もこのいずれかはしていると思うが、確かに役に立つことかも知れない。

そして、メモ書きの工夫、取材準備の重要性、「西側情報筋」、「消息筋」、「観測筋」などの匿名取材源の話など具体的に役立つ話が続く。 第二章 情報を読む では「情報分析や予測にあたっては、明確な結論や断定は避ける」ことから自分で結論を出してみるいい、またまた軍事評論家の田岡俊次氏から「分析の精度を上げるには、ともかく結論を出せ」と教えられたという。それは情報分析力の自分の欠点を自覚する必要があるからとし、判断のプロセスを記録しておけば、その場合にも分析力を高めるヒントとなると書いている。 新聞記者には論理的で解析力にすぐれ、何かものごとが起きると、たちどころにその背景や道筋を説き起こすことができる書斎派と分析は不得意でも、人並外れたカンが働いて、いつもスポット・ライトがあたる事件の中心に先回りしている現場派の記者の二つのタイプがいるとし、前者は解説や論評を得意とし、後者は特ダネ記事に辣腕を発揮するらしい。著者は前者の典型的な書斎派タイプで特ダネなどには無縁の記者だと謙遜して書くがその違いもチラリ。うーむ、ナルホド、ザ・ブンヤ。 国家情報機関の素顔、致命的な情報の「政治化」、英BBCの「独立性」、「信頼すべき筋」とは何か、確かな分析の数々、からくりを知る、情報を流す側の狙いを考える、「からくり」の奥を知る、世論操作と検閲、戦争宣伝のレトリックと特派員時代の経験などを踏まえて情報のからくりを考える。そんな中で著者が実践しているルーズリーフに書かれた「一日一行」の行動記録、「備忘録」はすごい。多忙の人間にはこれは真似たいひとつだ。 第三章 情報を伝える では誰に何を伝えるか、書くためのヒント、まずは文章の設計図を、設計図の作り方、さまざまなタイプの職人たち、ノンフィクションとフィクションの境目、「三角測量」が可能にする克明描写、IT社会と情報、構想力と分析力が問われるでこの本は終わる。情報収集、情報分析・加工、情報発信の言わば「つかむ」、「よむ」、「つたえる」の記者生活30年渾身の『情報航海(=公開)術』なのだ。メディアリテラシーは今、これはそのやさしく書かれた典型的な回答集の一つであるかも知れない。この手の本で思い出すのは梅棹忠夫著『知的生産の技術』(岩波新書)だ。筆者はこの本に習って、今もって京大式カード使ってメモを取っている。しかも半年に一度は伊東屋に行ってはそのメモ用紙を仕入れてくる拘り派なのだ。そうして云十年だ。便利なものはよろしい。ところで、筆者の記憶に間違いがなければその昔『北帰行』で雑誌「文藝」の新人賞を取った作家の外岡秀俊氏がこの本の著者、彼はその道を選ばずジャーナリストになって今や天下の朝日新聞の編集局長である。デビュー時の鮮烈さが蘇ってくる・・・。  

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