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2005/08/15

超人の面白読書 13 森鷗外著『舞姫』エリスのモデル、エリーゼ・ヴィーゲルトを巡って   

 ある小さな雑誌に寄稿してくれた金沢大学のU先生のエッセーが面白い。エリーゼは「伯林賎女」に非ずと題したそのエッセーは、文豪森鷗外の「舞姫」Img018
のモデル、今尚鷗外研究者間では有名なエリーゼ・ヴィーゲルトについて最近朝日新聞誌上で話題になっている記事に一石を投じている。今年2月23日付朝日新聞に載った山崎國紀・花園大学名誉教授の「鴎外同級生の手紙発見」のなかの鷗外と手切れの解釈を巡って同7月6日付で林尚孝・茨城大学名誉教授が反論していることに言及しながら、鴎外の東大同窓生・小池正直が上司石黒忠悳にあてた明治22年4月16日付書簡(下記参照)に書かれた「伯林賎女」をエリーゼとして、帰独から半年ちかくたって「手切」に至ったとの消息を読取ったことに対して、明治の候文書簡の解釈に疑問を呈してエリーゼは「伯林賎女」に非ずの林氏説を取るとその根拠を述べている。

【小池正直の書簡】 
Koike_shokan_3

益 御健勝 奉 賀上候軍医雑誌ハ正ニ
ロッツベッギ君へ相渡申候去十一日菊池
軍医当地へ参リ拙寓ニ泊翌日チュービ
ビンゲンへ帰申候○当地留学生中帰朝ノ
者ヤラ転学ノ者又目下休業中ニ付他ヨリ
遊ニ参シ者モ有之日々押掛ラレ候テハ
当惑ニ御座橋本春君モ烏城ヨリ飛参
十四五日間逗留ノ積ニ御座候兼而小生
ヨリヤカマシク申遺候伯林賎女之一件ハ
能ク吾言ヲ容レ今回愈手切ニ被致度候是
ニテ一安心御座候右に就いては近日総監閣下ヘ
一書可さし出候○別紙森へノ書ハ御一読之上
御貼付被下同人へ御転送被下候様希上
候同人ト争フ気ハ少モ無之候得とも天
狗之鼻ヲ折々挫キ不申候而ハ増長候歟之
怖も有之朋友責善之道ニも有之候ニ付
斯ク認候者ニ御座候不悪思召可被成下候
尚後日細報可仕候草々如此御座候也
     廿ニ年四月十六日 小池正直
石黒閣下

 U先生も林氏のこうした候文は○の位置で段落を区切って読むのが普通と述べ、最近の著書(『仮面の人・森鷗外』)のなかで、「伯林賎女」はその前に出てくる「春」にかかわる女性としたことに同意している。春とは石黒の上司にあたる橋本綱常軍医総監の息子、橋本春規でドイツ留学していた(2005年7月6日付朝日新聞の記事を引用)。

 高校の時分の現代国語で習ったか、それとも中学かは忘れたが、歴史小説と擬古文調に馴染めず『高瀬舟』、『阿部一族』、『山椒太夫』、『ヰタ・セクスアリス』他多少の作品は知ってはいるもののあまり読んでいなかった筆者だが、hotな話題を提供してくれたU先生に触発され、最寄の図書館に出かけて新聞のコピーと鷗外関係の本を借り出して読んでいる。鷗外の妹の小金井喜美子著『鷗外の思い出』、鴎外の次女の小堀杏奴著『晩年の父』と『舞姫 うたかたの記他三編』(いずれも岩波文庫)の三冊。法学者で鴎外ファンの植木哲著『鷗外の恋人エリス』の本はこの図書館には置いてないと言われてガッカリ。読みたかったのに。この森鷗外の「舞姫」のモデル、エリーゼ・ヴィーゲルトがこんなにミステリアスな女性だっとは、知らなんだ。何時だったかNHKでドラマ化されて放映していたのを思い出した。確か豊太郎役に郷ひろみ、エリス役に宮沢りえが演じ、ドイツ語がかなり取り入れらていたと思う。
 U先生のエッセーは近々刊行されるPS Journal 第7号に掲載されると訊いている。この明治の文豪、森鷗外のエリーゼ・ヴィーゲルトについてインターネットで調べていたら面白い記事を発見。茨城大学名誉教授で地理学がご専門の中川浩一氏(筆者は大分前に研究室でお会いしたことがある)が『舞姫』のヒロイン・エリスのモデルとされる実在の来日した女性について、その本名がElise Wiegertであることを横浜発行の英字紙The Japan Weelkly Mail を読んで発見したという。また、祖父君の中川一氏は文部省出身で、森有礼文部大臣遭難の時の大臣秘書官だった由。第五高等学校長も務め、かの漱石の留学手続きを進めた人だと中川浩一氏から直接聴いた富崎氏のメールを森鷗外情報2 熊本文学散歩なるHPで紹介している。もうひとつ。この書簡をもらった石黒忠悳(いしぐろただのり)は陸軍軍医総監で(森鷗外は彼の部下)、その石黒に博文館創業の大橋佐平が胃癌の疑いがあるとかで尋ね青山胤道博士を紹介してもらう。胤道は鷗外と親友で、鷗外の依頼で樋口一葉の死の直前に診察している名医だった。結局、大橋は胃癌のため67歳で亡くなる。そんな明治34年頃の話がカゲロウ日記なるHPに載っている。また、秦恒平文庫のサイトには文藝批評家・中村光夫の筆による「知識階級」についてのなかで、森鷗外の『舞姫』は小説の設定ではなく、作者の自伝と見るべきことで、この口に言い表しにくい覚醒が、鴎外の終生の文学的な仕事の基礎になったと思われると書いている。この「知識階級」は昭和34年7月『日本文化研究』初出になっているが、46年後の今読んでも新鮮である。
35ページ足らずの『舞姫』読了。雅文体の短編、実験小説っぽい。ドイツ土産三部作の一つで、これは弁明の小説とはあとがきを書いた評論家稲垣達郎氏。文豪森鷗外はペルソナの人だった?!

追記。翻訳家で随筆家の小金井喜美子(森鷗外の妹)著『鷗外の思い出』の本文始めの数ページ、森まゆみ解説の19ページ、それに終わりの「普請中」の6ページを電車の中で読んだ。そこには回想とは雖も凛とした明治の精神と鴎外のことなど明治の生活を綴る著者のやわらかい目がある。また、次の短歌から兄森鷗外を慕う妹の姿が素直に読み取れる。
    命ありて思ひだすは父と母 わが背わが兄ことさらに兄
そんな喜美子は「兄の帰朝」のなかで書いている。思えばエリスも気の毒な人でした。留学生が富豪だなどと欺かれて単身はるばる尋ねて来て、得るところもなく帰るのは、智慧が足りないといえばそれまでながら、哀れなことと思われます。主人の小金井良精氏(文化人類学者、東大教授)の周辺でも似たようなことがあったことをこの著者は知っていた由。ちよっときれい事っぽく書かれていて、鷗外云々は言及されていないのが不思議である。
話は変わるが星製薬の創設者星一と喜美子の次女精子の息子が、ショート・ショートで有名な作家・星新一。
筆者は星一のニューヨーク時代に発刊した新聞に大分関心があって探している。創刊号などが不明なのだ。
これを機会に団子坂の鴎外記念館に行って、いろいろと森鷗外についておさらいして見ようと考えている。その昔この近辺に屯していたのだが、この鴎外記念館には足を運んだのは二度ぐらいか、しかもその展示をさっと見た程度。森鷗外について何かとっつきにくいイメージが筆者にはあったのかも。。離れてみてその価値が解るとはよく言われることだが。それにしても、ああ! mottainai 。

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