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2005/06/18

超人の創作・小説 『風に魅せられて』     

                     風に魅せられて
                     
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1987年1月2日、ニューヨーク・クィーンズ区の友人宅へ向かうためナオミは、地下鉄ワシントン39ストリート駅の階段をやや急ぎ足で駆け下りていた。すでに時計は夜11時を回っている。吐く息は白く、凍てつく寒さが彼の頬を刺した。何日か前に降った雪が階段の下のほうに見えてきた。いかにも滑り落ちそうな階段を下りて右へ、と言ってもこのまま友人宅へ直行するにはまだ早すぎる時間、友人T男も仕事から帰っていないと勝手に想像しながら灯かりのついているバーに立ち寄った。前から看板を見ていて気になっていたアイリッシュバーである。
「バーボンウィスキーをシングルで。それにアイスと水をお願いします」
ナオミは怪しげな英語で注文した。するとナオミの英語が通じたらしく、素早く中年太りの男が注文のウィスキーを運んできた。
客はカウンターに一人いたに過ぎず、何やらお代わりのウィスキーをおねだりしている様子だった。
「明日は早いからこの辺で止めておきな」
店主の声がナオミにも聞こえた。
しかし、カウンターの男は帰ろうとせず
「もう一杯」
店主に懇願していて、終いに根負けしたのか店主はしぶしぶウィスキーを差し出して
「これで帰れよ」
その男は窘められながらクシャクシャのドル紙幣を受け取った。
ナオミはリスニングのトレーニングには絶好の場所と思い、よくある光景の米国バージョンと二人の会話のやりとりを楽しんでいた。

夜はすでに落ちていた。
信号機の色が窓ガラスに赤く、時に青く映えているのが見てとれた。
ナオミはT男宅に電話して帰宅しているのを確かめてからその店を出た。そこから5、6分も歩けばT男宅に着けた。外は凍てついていた。
T男はこのニューヨーク来て7年が経っていた。その間ミッドタウンにある旅行代理店に勤めていたが、トラブルがあって転職し、今は42丁目にある日本料理店『ナンバーワン』のアカウンティングマネジャーを勤めている。
この日本料理店は夕方5時から夜11時半まで営業していて、その後店の後片付けしてその店を出るのが大体12時頃らしい。ニューヨークの地下鉄は一日中動いているから電車で帰れる。地下鉄で20分位の距離である。ナオミがここニューヨークに年末年始の休暇を利用してやってきても、なかなかT男と休みを共有する時間が取れないでいた。しかし、一人でぶらぶらとあちこち歩くのは例の好奇心も手伝って面白く、そういう人間にとってはニューヨークは恰好の場所である。
ナオミは帰宅後T男とライト系の缶ビールを手にしながら、その日の出来事について多少談笑した。

こうしてナオミのニューヨーク5日目が過ぎた。

(つづく)

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