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2005/05/13

超人の面白読書 7 工藤幸雄著「ぼくとポーランドについて、など」

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工藤幸男著「ぼくとポーランドについて、など」(1997年12月刊 本体価格2000円 共同通信社)を読了。島尾敏雄著『夢の影を求めて 東欧紀行』を近くの図書館から借り出したついでにこの本もゲットし、こちらの本を先に読んだ次第。そして、筆者は最近ようやく読んだ『ワルシャワの七年』で(これも絶版で図書館から借りた)、その後著者はあのポーランドの自由化への道、ワレサの連帯とどう係わってきたか、大変興味があった。確か『ぼくの翻訳人生』のなかで「ポーランド月報」を発刊し連帯革命の応援団を買って出たと書いているが。それでクドーものをまた読んでしまったのだ。月刊「言語」、「鳩よ!」、「學燈」、「映画芸術」等々の新聞、雑誌に書いたもの、44編が纏められている。300ページ超には、生い立ち、満州時代、原口統三、寺山修司、井上光晴、木村浩等の友人の話、言葉あれこれ、コンヴィツキ、シュルツ、シンボルスカのポーランドの作家について、ときに舌鋒鋭く、ときに愛情たっぶりに描く。クドーワールド、ワンダーランド言ったところか。1997年時でのポーランド関係の著作は、『ワルシャワの7年』、『ワルシャワ物語』、『ポーランドの道』、『ぼくのポーランド文学』、『乳牛に鞍』、『絵の散歩道』の6冊、訳書はヤセンスキ『無関心の人々の共謀』、フワスコ『雲の中の第一歩』、コンブローヴィチ『コスモス』、同『ポルノグラフィア』、同『バカカイ』、ノヴァコフスキ『ワルシャワの冬の日々』、フェドローヴィチ『共産国で楽しく暮らす方法』、コンヴィツキ『ポーランド・コンプレックス』、カプシチンスキ『帝国』、ミウォシュ『囚われの魂』、シンボルスカ詩集『橋の上の人たち』、『ブルーノ・シュルツ全集』、ポトツキ『サラゴサ手稿』、ミッチェナー『ポーランド』、I・B・シンガー児童書4冊、『ワイダは語る』の19冊とロシア作家の訳書、パステルナーク『自伝的エッセイ』、エフトゥシェンコ『早すぎる自伝』、ドンブロフスキイ『古代保存官』3冊の計32冊と、はしがきの註で著者自ら記す。それは過去40年間ポーランドに拘ってきた成果だ。因みに、アマゾンドットコムのサイトで調べたら37冊。この本ではむしろ亡き友への哀悼、映画批評、ポーランドの作家・詩人についての論評が主で雑文集、スケッチ集にすぎないと謙遜ともとれる一文をあとがきで語っている。
コンフ゛ィツキ・インタビューのところで日本人とポーランド人について語っているところが興味を引く。曰く、どうしてそうなのかは分らないけれど、日本とポーランドは精神的に似ていますね。ほら、日本のサムライとポーランドのシュラフタ〔士族〕はそっくりだ。日本人はひどく控えめなのに熱情がある。内にこめた力、これににたものはポーランド人にもある。面目、名誉、誇りーこれも共通だ。戦争中は敵見方同士だったのにポーランド人の日本びいきは変わらない。さいわい両国は戦火を交えなかった。また、この作家の生まれ故郷について語るあたりなど筆者は大いに興味を持った。いまはリトアニアの首都ウ゛ィリニュス(ほとんどがカトリック教徒、1931年当時は人口19万5千人。現在の人口は58万人余。旧市街は世界遺産に指定されているー筆者註)、昔はポーランド領でヴィルノ。vilnius_old_town1
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この地方は歴史上重要な役割を果たしたところでリトアニア人はもちろんポーランド人、ベラルーシ人、ロシア人、タタール人、ユダヤ人なども住む多民族、多言語、多宗教の領域、諸民族の寄り合い所帯で現代の「バベルの塔」様相を呈し、今日で言えば相互理解、相互協力、寛容の精神を身につけていた、とコンブィツキは著者のインタビューに答えて語る。帝政ロシアでは西部諸県以外にはユダヤ人の居住が許されなかった。また、ユダヤ人の中でも最低の貧民層が集中して住んでいた。そして、ここからアメリカ、西ヨーロッパへ向けてたくさんのユダヤ人が国外流出した、と。アメリカでのポーランド移民の人口は、1970年時点の統計で510万人余。シカゴではポーランド人街を形成している(これは『ワルシャワの七年』P.31からの引用)。特にアメリカの藝術にはこれらの人々との繋がりが極めて強い。チェスワフ・ミウォシュ、フランスの作家になったロメン・ガリ、シャガール、スーチンの画家、映画俳優、監督らもこの地帯から出た由。
それで、どうしてなんだろうとこの地域が気になって、インターネットでリトアニア、ヴィリニュス周辺を調べてみたところ、最初の疑問からズレてオモシロイことが分かって苦笑い。もちろん教会など絵に描いたような美しい街並みが特徴的なエストニア(首都タリン。追記。このタリン、漢字を当たれば塔林、日刊ゲンダイで作家の五木寛之が編集者と語るコラム「流されてゆく日々」での記事。2005年7月23日付では聖ニコライ教会にほど近く、石の城壁の奥に組み込まれたような入口に看板、LITTLE CHINAを見つけ入った話。チャイナ服を着た髪の長い黒髪の美人が緊張した表情で応対してくれたが、CHINESE RESTAURANTなのに紹興酒も老酒もおいていないことにビックリしていた。でもその娘が純情だったと作家五木寛之は書いていた。)ラトヴィア(首都リーガ)などバルト三国のひとつには違いないが、最近では右翼の台頭でネオナチ風な風貌で日本人観光客を狙って窃盗他を働いていて危険なところと、情報が流れているではないか。もちろんそうでなかったとの報告も現地に行って来た人の報告もあったが。ついでに言えば、ビールが美味いのと美女が多いのもこの地域だそうだ。

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sugihara_kinenkankaunas15 このヴィニュスから西方にある商業都市Kaunasカウナスには第二次大戦中に6000人以上のユダヤ人を救った外交官杉原千畝(すぎはらちうね)の記念館がある(この写真はネットからの借用)。

追記。「日本のシンドラー」と言われたこの杉原千畝の伝記を読売テレビが終戦60年記念ドラマスペシャル「六千人の命のビザ」として制作、7月21日~8月8日までヴィニュスでロケも終え、10月中旬に放送予定と毎日新聞が2005年8月12日付で報じていた。杉原千畝・幸子夫妻を反町隆史と飯島直子が演じるらしい。

追記2。その後10月8日の日テレでこの番組の予告編を偶然に観た。その中で印象に残ったことは、杉原千畝が発給したビザで助けられた女性の一人がオーストラリアに住んでいて今92歳だということである。命の恩人・杉原千畝の発給したビザを家宝として大切しているし、息子、孫にもこの忘れてはならない歴史を証言し続けている。ビザ発給後、リトアニア系ユダヤ人のこの女性は、旧ソ連を経由し日本に渡り、そのとき妊娠していて神戸で出産、息子を産んだ。時代は新たな巡り合わせを生み、その孫夫婦も杉原千畝の実家のある町の記念館を訪ねて日本へ、ここで妊娠していることが判明、日本での「妊娠」がキーワードとそのお孫さんは言っていたが、その言葉の重みを噛み締めているようだった。10月11日火曜日夜9時、杉原千畝役の反町隆史とこのドラマの原作者の奥さん役に飯島直子が扮する「日本のシンドラー」のテレビドラマが楽しみだ。おそらく筆者は仙台のホテルで観ることになるが(2005年10月9日記)。


ワルシャワこのごろの章で著者は、演劇文化の普及、とくに戯曲翻訳に貢献したとの理由で「ヴィトキエヴィチ賞」を授賞し、その授賞式では地下出版で初の大仕事"検閲黒書"はクドウが大量送付のガリ版原紙の威力によったとの賛辞と拍手を受けた件は、この著者の文学者・翻訳者として社会を見る眼が確かだったことの証左だろう。
そして、また現代のポーランド文学は隆盛か否か、思いは尽きない。


言葉に関する薀蓄は、ちょっと辛口だ。すべからくの誤用、ご注文のほうはいかがしますか、の<ほう>の使い方、決まり文句、詮索、穿鑿、脳天気、定番、ほとけの顔も三度のほんとうの意味とか、ちょっと年配者の意地悪とも取れるし、言語感覚が古臭くなっているかなとも思うが、さて・・・。
最後に、クドーものをここ4ヶ月ほど読んできたが、恩師の渡辺一夫先生が円錐形を円筒形に間違えて訳したことを指摘した著者のエピソードは、筆者が読んだ3冊の中に必ずと言っていいくらい言及されていて辟易してしまった。小気味良い自慢 ? 揚げ足取り ? 寛容さも大事と思いますが、ね。人間は思い違いもするし、勘違いもするし、無知だし・・・。忘れないで指摘しておくと、文中にあった「拙者」は「拙著」の間違いだと思いますが。嗚呼、人間は、一知半解で人生は終わると著者も書いているではないか。

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