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2005/01/23

超人の面白読書 2 「ぼくの翻訳人生」

Kudo
工藤幸雄著「ぼくの翻訳人生」2004年12月刊 中公新書 267ページ 定価820円+税

1月15日読了。"翻訳歴50年。ポーランド語、ロシア語、そして英仏語翻訳で名訳を世に送り出した著者による言葉をめぐる自分史。ひとりの日本人の外国語体験の記録でもある。"とはこの本の腰巻の弁。
以前から気になっていた翻訳者だが解説書類以外はその翻訳書をほとんど読んでいない。確かゴンブローヴィチか何かだったと思う。雑誌「海」の海外特集とか、恒文社の現代東欧文学全集とか、主婦の友のノーベル文学賞全集とかでポーランド文学者の名前と解説等を拾い読みしたぐらい。そう、チェコとかハンガリーとか北欧、東欧等マージナルな地域に関心があったので・・・。白水社の『ポーランド語辞典』の共著である著者の名前は知っていて、その本を何度かパラパラ捲っては子音の多いことや特殊記号が付いた発音が難しいこととかで齧るのを諦めたことを想い出す。著者の言う先代ロシア文学者中村白葉・米川正夫・原久一郎、御三家原卓也・木村浩・江川卓(トルストイ、ドフトエフスキー、チェーホフ、プーシキン、ソルジェニーツィン等のロシア文学者の作品を誰の訳で読むか読み比べて見たりしたことが学生時代にあったが)、そしてそのなかの原卓也、江川卓他との親交をはじめ満州(著者は生まれたところでもあり、この地名に固執またこの地から出た面々を自慢気に紹介している。三船敏郎、秋吉敏子、遠藤周作、ジョージ川口、清岡卓行、安部公房、三木卓、小澤征爾、別役実、山崎正和、ジェームス三木、なかにし礼、小田島雄志、山田洋次、北畠洋一、毎日新聞の岩見隆夫、哲学者の木田元、桂米朝等々多士済々、インターナショナルというか、日本人離れというか、日本人的な狭さから解放されている観がある。こせこせせずに、のんびりしている。本文P.27)学生時代、『歴程』創刊に中心的な役割を果たした詩人、逸見猶吉、柴田天馬、『二十歳のエチュード』の原口統三等々、外国語の出会い、浪人時代、一高、東大フランス文学科時代(息の詰まるほどの服部四郎先生の言語学概論、人の顔を覚えない中島健蔵先生の文学談義、もっぱら避けたパスカル研究の森有正先生、鈴木信太郎、中村真一郎そして主任の渡辺一夫先生のエピソードと続くが、その渡辺一夫先生の落ちはあとがきと読者を最後のページまで引っ張っていくあたり、ベテラン翻訳者の成せる技か)、それから「血のメーデー事件」のこと、同人誌『世代』、共同通信社外信部時代の仏誌等の翻訳アルバイトで図書新聞、文藝春秋(担当者は今近現代史作家の半藤一利と)に売り込みをしたこと、アメリカ留学時の一冊20ドル(昭和34,5年頃)の「ポーランド論集」が寮の食堂で盗まれたこと等々懐かしく回想しているが、サタイアの効いた文章もあって興味深く読めた。
筆者の青春時代に読んだ作家達との交遊の何と多いことか、羨ましい限りだ。話しが先に進んだかと思えば戻ったりして前後関係に多少戸惑うが、著者の呟きがはっきりと聴き取れる。人生は山あり谷ありである。
後半は著者の自慢話にも聞こえる自分の翻訳書の話しにページを割いているが、この老輩の翻訳のプロは、言葉談義にも見られるように鋭い言語感覚の持ち主でもあり、日本語の語彙、使い方、誤用には手厳しい。これから翻訳を志す人には必読の書。中原道喜著『誤訳の構造』(聖文新社、04年)は著者推奨の一冊。


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