俳句・詩

草野心平詩集(岩波文庫) 『乾 坤』抄から 噛む 少年思慕調

噛む

少年思慕調

阿武隈はなだらかだつた。

だのに自分は。
よく噛んだ。
鉛筆の軸も。
鉛色の芯も。

阿武隈の天は青く。
雲は悠悠流れてゐた。
けれども自分は。
よく噛んだ。
国語読本の欄外はくしやくしやになり。
活字の行まで噛みきると。
空白になつた分は暗誦した。


小学校は田ん圃の中にぽつんとあり。
春は陽炎につつまれてゐた。

だのに自分は女の子の胸にかみついて。
先生にひどくしかられた。

ゆつたりの薄の丘や。
昼はうぐひす。

だのに自分は。
カンシャクをおこすとひきつけた。
バケツの水をザンブリかけられ。
やうやく正気にもどつたりした。

指先の爪は切られなかつた。
鋏のかはりに。
歯で噛んだ。

なだらかな阿武隈の山脈のひとところに。
大花崗岩が屹ッ立つてゐた。
鉄の鎖につかまつてよぢ登るのだが。
その二箭山のガギガギザラザラが。
少年の頃の自分だつた。

阿武隈の天は青く。
雲は悠悠と流れてゐたのに。

この詩は少年時の回想だが、筆者も二箭山には従兄弟の案内で登った。鉄の鎖でよじ登ったあとの頂上から眺めた秋晴れの景色は絶景だった。その従兄弟は大分前に死んだ。

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超人の新年の詩 2017 ニュースピークの幻影

新年の詩 2017

ニュースピークの幻影

穏やかに流れてゆく
新年の陽光に
誰かの展示会のタイトル
陽光礼讚がかぶる

日はまた昇る
日はまた笑う

誰もが特別な朝に
願うのは平和

緩やかに流れてゆく
新年の陽光に
小さな庭の赤い薔薇
陽光礼讚が似合う

日はまた昇る
日はまた笑う

世界はことばの限界を
露呈し始めて
取り付く暇もなく漂流

ポスト トゥルース
ニュースピークの幻影

羅針盤が壊され
新たな航海が視界ゼロに

果てしなく続く局地戦

武器をさらば
武器をさらば

何時になったら
止められる 暴力

非戦の誓いは
本当に来るのか

それでも日は昇る
それでも日は笑う

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詩「日常」

日常

頑なに生きることは
日常を渡り歩くこと

誰にでもない
誰かのものでもない

認識をも押しやって
ひとつのものへ収斂してゆくこと

明日はと準備する
誰もが
一人生きることを
(おお それこそ黄金の搭)

望みながら
明日という日常をたずさえても
ぶらつけずに籠るのだ

頑なに生きることは
仔細な日常を歩行すること

おまえにでもない
おまえらのものでもない

みんな誰もが
言葉を
言と葉に分解しては
もとに戻らぬ不快さに

嘆き
或いは 悲しいという
或いは 淋しいという

何だか動物たちの声に響く

季節は春を告げるというのに
白々した日常の
大きな倦怠の欠伸
だが 動物たちの声は
不協和音などという
高尚なメロディーを轟かせはしない
太い低音の合唱で
始まり終わる

頑なに生きるとは
日常を
何でもない日常を
掘り起こす生の修羅場

ハンマーをふりあげ
血と汗に沁みながら
頭蓋骨と肉体とを活き活きと

そうして
全行程を日常に費やすことだ


この4月に起きた熊本大地震、かけがえのない日常がふっ飛び、一変して過酷な惨い日常が立ちはだかっている。私たちにはたくさんの覚悟がいる・・・。熊本出身の政治学者姜尚中氏や医師で日本医科大学特任教授海原純子氏の最近の記事に触発されて「日常」という詩を想い出した━。

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超人の面白読書 123 自由の女神の台座に書かれている有名なエマ・ラザラス「新しい巨像」の詩  続

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お台場にある自由の女神像を見に出かけた。ひょっとしたらエマ・ラザラスの詩も見られるのではないかと脳裏を過ったからに他ならない。ありえへんと一応分かっていてもー。生憎気温も低く寒空の中、お台場海浜公園の一角、後方にはレインボーブリッジがすぐの好位置に見つけた自由の女神のレプリカだが、ネットで書かれていたほど小さくはなく、それなりのフォルムの美しさがあった。近づいて何か書いてないか探したが、それらしき文言は見当たらなかった。当然といえば当然で、フランスのパリから日仏友好年イベントの一環で運ばれてきたフランスの自由の女神像のレプリカだからだ。友好年後にフランス公認の自由の女神像としてオリジナルに忠実に鋳造されてこのお台場に置かれたのだ。そういえば、その催しはフジテレビの番組で見たことを思い出した。
ニューヨークのリバティ島にある自由の女神像は、もちろん大きくて威厳があるが、このお台場のレプリカもそれに劣らず真鍮の輝きがこれまたいい。右手に松明、左手に本を持つお馴染みのポーズ、それにキリッとした顔の表情は何回見ても飽きない。ところで、この自由の女神像の“ナンチャッテ”像が大阪の河内あたりにもあって(確かパチンコ店のそれ)、一瞬本物かと目を疑うような代物で笑わせるが、それは関西人のユーモアの証だろう。それはともかくネットで見つけたニューヨークにある自由の女神像の銅板に刻まれたエマ・ラザラスの詩やお台場海浜公園にある自由の女神像のレプリカなども撮影してきたので画像を取り込むことに。難民・移民の有様はこの詩に象徴されるように生死をさ迷いながら懸命に新天地を求めて生きる人間の営みといえるが、同じ人間として何らかの手を差しのべることも忘れてならない。何ヵ月か前の北ヨーロッパの国々が難民に対して柔軟な姿勢を見せてなかなか立派と思っていたけれども、今年に入ってそういった国々が消極的になり始めていることが痛々しく感じられて仕方がない。確かに財政的に余裕がないことが一番に挙げられることかもしれないが、知恵を絞って共存共栄の道を歩めないものだろうか。PR誌『1冊の本』巻頭随筆、難民・移民問題に揺れる欧州ー日本はどう対処すべきか?で執筆者が言うように、移民の中からシリア出身のアップルの創業者ジョブス氏のような人物も出てくるかも知れないのだから。日本の私たちも大地震・原発事故を体験した国として、相手の痛みを共有できる行動を取る必要がある。人間を大事にする地球人を育成していかなければ私たちは自分たちが築いてきた文明に取り返しのつかないしっぺ返しを喰らうことになる。人間のエゴの抑止力が必要なときで、人間の悲劇を繰り返してはならないのだ。それが21世紀を生きる私たちの使命なのだから。海の見えるお台場の海岸を歩きながらそんなことを考えた。自由の女神が見えるニューヨークのバッテリー公園のバッテリーとはそもそも砲台を意味し、お台場も砲台場がその由来で大砲が備えつけられた場所である。平和を考えるのにふさわしい場所だ。それにしても春節直前にやってきた中国の老若男女がいやに喧しいー。
尚、ニューヨークの自由の女神については下記が最良かも。もちろんエマ・ラザラスの詩にも言及している。http://libertyellisfoundation.org//Fun_Facts.html

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超人の面白読書 123 自由の女神の台座に書かれている 有名なエマ・ラザラス「新しい巨像」の詩

つい2、3日前に届いた朝日新聞出版のPR誌『1冊の本』最新号の巻頭随筆に「難民・移民問題に揺れる欧州━日本はどのように対処すべきか?」というタイトルで簑原俊洋神戸大学教授が書いている。その中にニューヨークにある自由の女神の台座内部の銅板に刻まれているエマ・ラザラスの詩の中に籠められている言葉こそが移民に対するアメリカ国家の精神を反映していると一部を引用している。引用箇所を含めた詩「新しい巨像」の原文は下記の通り。

The New Colossus

Not like the brazen giant of Greek fame,
With conquering limbs astride from land to land;
Here at our sea-washed, sunset gates shall stand
A mighty woman with a torch, whose flame
Is the imprisoned lightning, and her name
Mother of Exiles. From her beacon-hand
Glows world-wide welcome; her mild eyes command
The air-bridged harbor that twin cities frame.
"Keep, ancient lands, your storied pomp!" cries she
With silent lips.✳"Give me your tired, your poor,
Your huddled masses yearning to breathe free,
The wretched refuse of your teeming shore.
Send these, the homeless, tempest-tost to me,
I lift my lamp beside the golden door!"

(Emma Lazarus, 1883)

✳印以下が引用箇所。しかし、どういうわけかこの引用箇所のThe wretched refuse of your teeming shore. の訳が抜け落ちている!
(念のため専門家にも見てもらった)

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2013年5月下旬にニューヨークはバッテリー公園あたりを家族と散策したときに撮った写真。移民の群像の彫刻(http://cocolog-nifty.com/callsay/2013/09/201346-b1fd.html)。このときは自由の女神が改修中だったかで(?)行けなかったが、1980年代後半には自由の女神の内部に入り込むために並んだ記憶がある。そのときに自由の女神の台座に刻まれたこの詩を見たはずなのだが…。


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クロカル超人が行く 179 世田谷文学館『詩人・大岡信展』 余録

筆者の書棚から取り出した大岡信の本。

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詩集『遊星の寝返りの下で』(書肆山田版 初版 昭和52年12月刊)の内容の一部。

「20151105130447.pdf」をダウンロード

世田谷文学館で配布されていた大岡信の詩篇。

「20151105122245.pdf」をダウンロード

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超人の面白翻訳鑑賞 西脇順三郎作「雨」のドナルド・キーンの英訳

南風は柔らかい女神をもたらした
青銅をぬらした 噴水をぬらした
燕の羽と黄金の毛をぬらした
潮を濡らし 砂をぬらし 魚をぬらした
静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした
この静かな柔らかい女神の行列が
私の舌をぬらした

rain

The south wind has brought soft godnesses.
They have wet the bronze, wet the fountain.
Wet the swallow's wings, wet the golden feathers
wet the tidewater , wet the sand, wet the fishes.
Gently, wet the temples, baths and theaters
The procession of gentle, soft godnesses
Has wet my tongue.

『日本文学史 近代・現代篇 8』(中公文庫)P.273-P.274より

何ともエロチックな詩だが、キーンの英訳、wetの響きがこれまたいい。

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超人の面白翻訳鑑賞 西脇順三郎作「天気」の英訳

Junzaburo Nishiwaki's very famed poem, "Weather" translated by Hosea Hirata as follows :

On a morning(like an upturn'd gem)
Someone whispers to somebody in the doorway.
This is the day a god is born.

“fine weather” translated by Donald Keene as follows :

A morning like “an upturn'd gem”
People are whispering someone by a door
It is the day of the god's nativity.

注。ホセア・ヒラタ訳はネット情報。ドナルド・キーン訳は『日本文学史 近代・現代篇8』(中公文庫)P.270-P.271より

追記 小千谷の人で西脇順三郎を偲ぶ会の会員の永田隆史氏の英訳。
On a sparkling morning(like scattered jewely)
Someone is whispering to somebody in the doorway
This is the day a god is born.

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超人の面白俳句

秋空の台風があと苦笑い

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超人の新年の詩 2014

新年の朝 2014

去年今年 貫く棒の 如きもの
と虚子の句で新聞の社説は始まった
2014年元旦

快晴 暖

いつか来た道を繰り返したくない
いつか辿った暗い道に戻りたくない

なしくずしに起きている
決められてゆく政治の不気味さ
日本国の有様が大きく化け始めている

なぜに急ぐ
そんなに急いでどこへゆく

舵取りをする日本国の偉い人は
少数者の声にこそ耳を傾けなければいけない
民主主義の基本原理を
あっという間に忘れてしまっている

原発や格差の問題も野ざらしにしながら
先を急いで
とてつもない荒野を走り始めている

鳥の眼が必要なのに
あまりにも近視眼的に決められてゆく
この国の政治

普通の人々の暮らし向きは
どこへ行った
普通の人々の意見は
どこへ行った

お隣さんは視界不透明
お隣さんが怒っている

貫く棒の尊さを
私たちは忘れたのか

いつか来た道を辿ってはいけない
茶色い戦争はもう懲り懲りなのに
懲りない面々の
凍てついた言葉ばかりが
一人歩きしている

Sally's voice ;
crying and laughing
on her bed in hospital
on New Year's morning

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