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超人の面白読書 112 中村忠夫著『西脇順三郎の風土 小千谷を詠んだ詩の数々』 5

そして著者は西脇順三郎85歳での全詩集最後の詩「望郷」を取り上げる。その13行目からの引用だ。

夏の日は晴れわたる
近江の人森先生の博物の時間
この田園の憂鬱は学名が衰えて
郷音が栄えることである
ゲンゴロウはゴウガメになる
でも先生は子供のカイギャクとみなして
女の子のようにホホホホホと笑った。
正午は愁人も割れたイチジクになる
アルミの弁当には
タラコかまたは
大豆を醤油で辛く煮て
杉の皮をかむ
塀の外へ出て桐の生えた土手に
足をなげだして、
クイナを思いながら。
また時には特有のにおいがする
小便室でアンパンか
食パンの切りみを買つて
砂糖をふりかけて食う。
ボタモチはアルミに入れるのも
あじけないと思うのか
見たことがなかった。
なにしろ
絶大なる孤独感におそわれるのが
人間の故里の宿命でどうしょうもない。
ああ遠くで犬がほえているようだ。
またよそ人が近づいたのであろう。

旧制小千谷中学校は、西脇先生の生家から2キロメートル程離れた上ノ山のはずれにあり、その頃の様子が面白おかしく詠まれている詩だと著者が解説している。さらに、小千谷市立中学校、新潟県立小千谷高等学校や小千谷市立東小学校などの校歌作品を紹介して終わる。この校歌作詞にはエピソードがあって、関係者をどぎまぎさせたと著者。
「校歌作詞は引き受けましたが、一つ条件があります。それは校歌の作詞の完成は明日かも知れないし、1年後かも知れませんのでご承知おきください」しかし、完成は意外と早くしかも立派な作品だった。
西脇詩の優れた読解力の持ち主で小千谷の風土をこよなく愛してきた著者だからこそものにできた好著である。本書で筆者も西脇詩に出てくる植物については大分教えられ(そう言えば、北欧文学者・児童文学者・詩人の山室静も植物には造詣が深かった)、おかげで筆者の西脇詩の見方がより身近になった。西脇順三郎詩入門書にもなっているので一人でも多くの人に読んでもらいたい本だ。特に若い人たちに。自費出版なので、興味のある方は直接中村内科消化器科医院に問い合わせたい。

筆者はいま戦後文学の傑作、梅崎春生の『幻化』と西脇順三郎の「幻影の人」について、この二つの「まぼろし」のあとに続く哲学的否ラディカル(根源的な)な言葉、"人生観たり"と言いたげな謎かけの解を楽しんでいる。
評論家の篠田一士が、1982年6月7日付朝日新聞文化欄の西脇順三郎追悼文に寄せて次のように書いていた。いまその意図することを思い起こしてもいい時期かも知れない。その最後の方を引用して終わりたい。

「幻影の人」のイメージが、たえず立ち現れ、それを巡って、詩的、あるいは、学問的考証が行われる。そして、また、このイメージは、西脇順三郎の全詩集を一環する、もっとも独創的な詩的遺産として、いまや、手渡されたのである。

旅人は待てよ
このかすかな泉に
舌を濡らす前に
考えよ人生の旅人
汝もまた岩間からしみ出た
水霊にすぎない
この考える水も永劫に流れない
永劫の或時にひからびる
ああかけすが鳴いてやかましい
時々この水の中から
花をかざした幻影の人が出る

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