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超人の面白読書 108 常盤新平著『遠いアメリカ』

翻訳家の柴田元幸氏(アメリカ文学が専門の元東大教授。雑誌『Monkey Business』の編集責任者。アメリカの文芸誌『A Public Space』創刊号の日本特集記事のコーディネーター。ポール・オースターなどアメリカの作家の翻訳多数。作家村上春樹と親しい)の記事が、今週号(2015年5月10日)のThe Japan Times On Sundayに掲載されている。
The 'dwarf´architect of Japan´s literary boomとタイトル名が付けられた、22面のTime Out | Books 欄に。タイトル名を強いて訳せば、日本文学ブームを引き起こした小さな企画者。この記事の最後はこう綴られている。

“Japanese literature is in great shape now,” Shibata says.”So many writers are trying so many different things. It´s really a wonderful time for literature.”

その翻訳家柴田元幸氏も影響を受けた常盤新平の直木賞授賞作品『遠いアメリカ』Image_3を読んだ。自分のまわりを書き留めた風の私小説。

目次

遠いアメリカ

アル・カポネの父たち

おふくろとアップル・パイ

黄色のサマー・ドレス

すでに「遠いアメリカ」は町田市民文学館「常盤新平展」のしおりで読んでいたので、他の3つの短編を読了した格好だ。いずれも雑誌『オール読物』(1985年7月~1986年4月)に掲載されたものをまとめて単行本化したもの。この作品の直木賞選考評はすでにこのコラムで触れた。ここでは筆者の読後感を少し。
作者とおぼしき翻訳家をめざす主人公重吉が、恋人の地方巡業の多い劇団所属の椙枝と織り成す恋愛小説で、昭和30年代初めの高田馬場、六本木、渋谷などの喫茶店や下宿が主な舞台。青春の一時期を切り取った甘酸っぱい男女間の感情を浮き彫りにしながら、頼りなく揺れ動く学生の心理状態を現在形でテンポよく描く。アメリカに憧れてペーパーバックを読む主人公重吉は、親の脛かじりの身分で昔気質の父親を嫌悪するが、どうにも頭が上がらない。そのアンビバレンツに悩むが一方、末っ子で母親には可愛がられるが、お節介が苦手な不器用でシャイな主人公の顔も覗く。また、音楽隊にいる一番理解者の兄の存在も都会にあっては頼もしい。しかもその兄はアメリカ文化を導き出してくれた人。翻訳の下訳の仕事や初めての翻訳の仕事をもらううち、結局は翻訳の仕事を出してくれた出版社に勤めることになる。それは収入の安定が保障され恋人椙枝との結婚に踏み切る足掛かりがとなる。大雑把にいえば、そんなあらすじだ。昭和30年代初めの風俗、特に喫茶店文化を巧みに描き出して余りある。主人公重吉が高田馬場の喫茶店できまってトーストにバターのモーニングセットを頼み、スポーツ紙などに目を通すシーンが度々出てくるが、これが当時の都会の喫茶店の朝の風景だろう。また、恋人椙枝との待ち合わせなどに使った渋谷の音楽喫茶も当時の流行(モデルの喫茶店は現在でも営業中)。そういった喫茶店は今や東京でも数えるほどに激減した。アメリカ風の安価でせわしく味気のないカフェが乱立して久しいが、ここに来て今また、名前を変えて昔なつかしの喫茶店が出来ているらしい。常盤新平の『遠いアメリカ』は、主人公重吉の自分探しのもどかしさを存分に表現している傑作ータイトルの“遠いアメリカ”が示唆的ーだけれども、また、打算的な生きも持ち合わせているのが人間的で面白い。それは親とのちょっとした取引やアルバイトの下訳の交渉などに表れ、恋人椙枝には見透かされて、「あなたは朴訥にして老獪だ」と言わせてしまうほど。要は田舎者が純粋な振りをして実は、狡い振る舞いも持ち合わせているということだ。作者50代半ばで書いた青春彷徨小説。ある程度翻訳やエッセイなどを書いてきたいわば、プロの作家だから、プロットや小道具(ところどころにエロチズムを挿入することを忘れないなど)の配置、文体(むずかしい言葉はあまり使わない。文章のリズムなど)まで考えられて書かれているような感じを受ける。軽妙なタッチが持ち味になっている。常盤新平はどうしても青春の置き土産を書きたかったのだ。ある意味では清算したかったのかも知れない。当時話題になった本だが、タイトルは知っていたが(そういう本がいかに多いか!所謂積読というやつだ)筆者は読んでいなかったので町田市民会文学館主催の「常盤新平展」を鑑賞したのを機会に読んだのだ。

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