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超人の面白読書 105 矢嶋道文編クロス文化学叢書第1巻『互恵と国際交流』

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クロスカルチャー出版からクロスカルチュラル スタディーズ シリーズ(クロス文化学叢書)の第1巻、矢嶋道文(関東学院大学教授)編、キーワードで読み解く〈社会•経済•文化史〉と謳った『互恵(レシプロシティー)と国際交流』が発売になって約3ヵ月、読み応えのある重厚な本(本文だけで406ページもある大著)でまた、〈互恵(レシプロシティー)〉がテーマのユニークな本でもあるが、重厚といい、ユニークなタイトルといい、どれだけ読者を獲得できるか一読者の筆者としても気掛かりだ。本書の特徴は、古代から現代までの日本と外国との交流が俯瞰でき、それぞれに丁寧な用語説明を付して内容理解を手助けしている点だ。また、特に近代経済学の祖、アダム・スミスのreceprocityの概念に注目して、そのreceprocityと国際交流を結びつけたことにこそ編者の狙いと本書の価値も見いだされるというものだ。ただ、編者も序論で書いているように、読み進んでいくと執筆者によって濃淡があることも事実だろう。筆者的には特に次の執筆者たちの論考に興味を引かれた。見城悌治氏の「1930年代における中国留学生たちの日本見学旅行」(冷え切った日中関係の今こそ読んでほしい)、林博史氏の「日本軍『慰安婦』問題に取り組むアジア市民の交流と連帯」(これも現状の日韓関係悪化改善策には示唆的な文章)、橋本和孝氏の「東遊運動と東京義塾ーベトナム・アンチ・コロニアリズムとレシプロシティー」(最近のベトナムの経済発展には目を見張るものがあるが、実は明治大正期に日本とベトナムにも深い互恵関係があった)、住民投票で惜しくも独立の夢は絶たれたスコットランドと日本に言及した小林照夫氏の港横浜お雇い外国人の興味ある話、松尾野裕氏の北海道酪農史や山本長治氏の武藤山治のアメリカなどだが、勿論他の執筆者たちの論考もいい(編者の苦労のあとが読み取れる)。一方で、経済学の理論的なものは大分専門的過ぎて難解なものも。そんな中で多ヶ谷有子氏の「ことばに宿る霊力ー今むかしー」は、文化史的な観点からのユニークな論考で興味深かった。
ここで参考のためにその他の論考にも触れておきたい。

編者矢嶋道文氏「21世紀におけるレシプロシティー(互恵)と国際交流」を考える 
伊藤哲氏「『国富論』にみるリシプロシティー」
田中史生氏「遣随使・遣唐使と文化的身体・政治的身体」
永井晋氏「鎌倉時代の日元関係を考える」
勘田義治氏「古代キリスト教ネストリウス派の東漸」
伊藤綾氏「明治初期における日伊外交貿易の特質」
宮田純氏「幸田成友の国際交流にみられるレシプロシティー」
西淳氏「近代経済学を構築した『京都学派』と国際性」
金暎根氏「日米貿易摩擦の変容」

今日の神奈川新聞に書評が掲載された。簡潔に内容紹介した好意的な書評だ。評者もちょっと触れていたが、編者のいう〈互恵(レシプロシティー)〉=他者への思いやりの精神が今こそ必要なときはないと思うのだ。研究者、院生、学生、大学職員、教師や一般人だけではなく、広く外交官や官僚、マスコミ関係者(筆者的には「そこになぜ日本人が」や「you はなぜ日本に来たの?」などこの手の番組関係者)、作家、海外で活動する日本語教師、音楽家などの芸術家、工業や農業の技術者、商社マンなどにも有益な本で、知的刺激を受けることは間違いないと思う。

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詳細はこちらのホームページにアクセスされたい。 http://www.crosscul.com :


追記 筆者は今昨年の大晦日に購入した話題の本トマ・ピケティ著山形浩生・守岡桜・森本正史訳『21世紀の資本』(706頁 2014年12月8日第1刷  12月25日第5刷 みすず書房刊 定価5500円+税)を読み始めている。本書は政治、歴史、経済学の本で、今や世界的に顕在化した「格差の拡大」の問題を扱っていて刺激的だ。経済思想史の領域も扱っているので、クロス文化学叢書第1巻矢嶋道文編『互恵と国際交流』と関連性があるかも。さて、いつ読み終えるか?(2014年1月3日)

追記2 クロス文化学叢書第1巻矢嶋道文編『互恵と国際交流』関連のイベントが1月31日(土)午後1時半~5時まで関東学院大学関内メディアセンター(横浜メディア・ビジネスセンター8階)で開催される。関心ある方は奮ってご参加されたい。入場無料。下記はその概要。

関東学院大学文学部比較文化学科主催 「国際文化学部」発足記念シンポジウム」―互恵と国際交流を考える―
上記『互恵と国際交流』の執筆者のうち、田中史生先生、永井晋先生、多ヶ谷有子先生、小林照夫先生、橋本和孝先生、見城悌治先生、林博文先生が講演。司会は編者の矢嶋道文先生。詳細は下記を参照されたい。
「20150120150610.pdf」をダウンロード

関東学院大学のシンポジウムを聴きに出かけた。会場は神奈川新聞社が入っているビルの8階の快適なホールで、シンポジウムは司会者の絶妙な呼吸の下、講演者が持論をコンパクトに展開された(持ち時間1人15分!)。内容は「互恵(receprocity)」(註:文化人類学用語で使われる〈互酬〉と同意語)をキーワードに。叙述と講演の違いがみえて興味深かった。また、野毛近くのディープエリア一角にある韓国料理店での懇親会にも出席、講演者他の交流も活発だった。(2015年2月2日 記)

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追記3  巻末にはこの本を含めた〈クロス文化学叢書〉の発刊に際しての言葉が記されている。このシリーズの全体的なコンセプトが読み取れるはずだ。以下に 全文を引用してみよう。


クロス文化学叢書(Cross-cultural Studies Series)発刊に際して

21世紀は精神生活を豊穣にする世紀である。IT革命が進んだ今、書物の復権が叫ばれて久しいが、物質文明にに侵食されてものが溢れてしまい、却ってものを見たり、感じたりする力が衰えてきている。慎ましやかな人間の存在が人間の創造した物質によって自らを破壊していることは事実である。今こそこうした人間の危機を打開し、世界の平和を求めて、知の円環運動を射る新しい矢が必要なときである。このような事態に直面して、真の教養とは何かを地球規模で問いながら、真理は万人のために拓かれることを痛感したとき、私たちは新たな知の地平を構築する意味の重要性に気づく。
クロス文化学叢書(Cross-cultural Studies Series)は、〈知〉の気球を飛ばして狭くなった地球をじっくり歩く試みとして発刊する。国と国との境界を越え民族間の争いを越えて、私たちが豊穣さを共有するとき、私たちは初めてshake hands できるのである。そこには政治的、経済的、社会的、文化的な枠組みから放たれて、ものごとの全体をよりよきバランス感覚をもって自覚された人間がいる。ゆえに、クロス文化学(Cross-cultural Studies)とは国際間の交流をはかるものさしである。換言すれば、地球人としての自覚をより進化させる学問なのである。
それはまた、異文化、多文化、多元言語化の現状を認識し相互理解を深めていく知の連関運動である。出版界がかつてないほどの怒涛にある現在、あえて新教養書を発刊する意味は大きいが、また、幾多の困難も予想されることも事実である。ここに出版人としての自覚を促しつつ読者諸氏の共感を期待するものである。

2014年9月

また、英訳もあるので画像で見られたい。

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追記3 上記クロス文化学叢書第1巻『互恵と国際交流』関連の講座が開催中。
葉山町民大学で「互恵(レシプロシティー)と国際交流を考える」と題して2015年2月16日~3月16日まで毎週月曜日午後に行われている。詳細は下記を参照されたい。
「20150220140706.pdf」をダウンロード

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