« 超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 8 | トップページ | 超人の面白読書 103 サヘル・ローズ著『戦場から女優へ』 »

超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 9

そして著者は本書の最後にこう記す。
西洋と東洋とはお互いに相手が必要とするものを理解し、相手の考え方に注意を払うようになってきました。また分別のある人たちのおかげで、各民族が持っているつまらない虚栄心が徐々に消えつつあります。20世紀の人類は、東洋人も西洋人も、一緒に笑い、語り、学ぶことで、先輩たち、半世紀前に出会って親しくなった進取の気性に富んだ先輩たちの努力の仕上げをしなくてはならないのです(本文P.256)。

20140108112443_00001_2

ピックアップした引用が多少長くなってしまった。ここには昭和初期の赤裸々に描いた日本の庶民生活の姿があるが、同時に、時折散見される鋭いコメントはもちろんのこと、しかしそれ以上にごく普通のイギリス人女性の暖かい眼差しがある。目線が低く日本人の中に溶け込んで印象を素直に語っているのだ。この時代はやがて悲惨な戦争へ突入していく暗い時代の予兆が見え始めている頃で、そんな時代によくも見事に日本の社会を描写したものだと感心する。それは訳者もあとがきで書いているように、日英関係が悪化し、日本が国際社会から孤立しつつある時、優れた文化の伝統を持つ日本の正しい姿をイギリス人に伝え、両国の関係改善に役立ちたいと思ったのであろう(P.264)ことは容易に想像がつくというものだ。共感の持てる日本人論になっている。訳もこなれていて読みやすかった。筆者的にはシュリーマンの『清国・日本』では幕末期の日本社会を描いていて面白かったが、それから70年あまり日本の庶民生活がどう変化したかを考察するのにも大いに役立った。そしてそれから80年あまりの現在、何か似かよった時代の雰囲気を感じてしまうのだが…。
岩波文庫のこの本は1994年が初版で2013年現在27版、やはり読まれているのだ。

筆者の手元に2013年12月21日付の毎日新聞朝刊に掲載された小さな記事がある。
英大使館の土地が日本に一部返還の見出し。この記事によると千代田区一番町にある在日英国大使館の土地の一部が約140年ぶりに日本に返還されることになったという。英国大使館の土地は、明治維新直後の1872年(明治5年)から、無期限で貸し出されていて、5000平方メートル、路面価格で約700億円らしい。日本に支払う賃料は10年ごとに改定され、現在は年間8129万万円だそうだ。現在の英国は財政が逼迫しているのかも。
アストン、サトウの時代、そして著者のキャサリン・サンソムの夫で外交官のジョージ・サンソムも住まった英国大使館、歴史の舞台をいろいろと見てきたはずだが―。
訳者あとがきに書かれてある本2冊をこの正月に取り寄せて本書と関連するところを読んだ。
その一つは平川祐弘編『叢書 比較文学比較文化 2 異文化を生きた人々』(1993年刊)の牧野陽子執筆「赤裸々の人間賛歌―キャサリン・サンソムの東京時代」、もう一つは平川祐弘著『東の橘 西のオレンジ』(1981年刊)の「サムソン卿の日本」である。大分昔の本だが大変面白かったし参考になった。特に比較的長い著者のあとがきも面白かった。今度は外交官を辞めたあと戦後極東委員会のイギリス代表として来日、その後アメリカのコロンビア大学やスタンフォード大学で教鞭をとった人で日本研究家のジョージ・サンソム卿の著作に挑戦してみたい。

追記 原書『Living in Tokyo』(Harcourt, Brace & company, 1937.184ページ)はアマゾン英古書価格では65ドルもする !

追記2 著者と外交官の夫について訳者のあとがきでの面白い記述があるので書き記しておきたい。
地味で大人しく日本人の中にいても目立たない夫とは違って、ツイードのコートを着てトカゲの革のハイヒールをはいた夫人の周りには人だかりがしたり(ジョージ・サンソム卿と日本』31ページ)、デパートで買い物をすれば人々がのぞき寄った(59ページ)ようだが、夫人は偉ぶることもなく日本人の庶民を実に暖かく見た。

追記3 雑誌「ニューヨーカー」1937年4月10日短評に載った記事。

Living in Tokyo, by Katharine Sansom. The domestic and pictureresque side of Japanese life. The forty illustrations, twenty-nine in color, by Majorie Nishiwaki are charming.

筆者註。The forty illustrationsのfortyはforty-twoの誤記か。
20140117111527_00001


|

« 超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 8 | トップページ | 超人の面白読書 103 サヘル・ローズ著『戦場から女優へ』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/77059/58889986

この記事へのトラックバック一覧です: 超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 9 :

« 超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 8 | トップページ | 超人の面白読書 103 サヘル・ローズ著『戦場から女優へ』 »