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超人の面白読書 102 キャサリン・サンソム著 大久保美春訳『東京に暮す』 7

百貨店にて。

風呂敷は世界で最も便利な発明品の一つです。風呂敷というのは絹か木綿の正方形の布で、日本人は物を運ぶ時にこの布を包んで持っていきます。イギリスの労働者が弁当を包む赤いハンカチのもっと素敵なものと思えばよいでしょう。素材は縮緬か絹か綿です。買物の時に重宝します。あれこれ買う度にぽんと中に入れていけばよいので、私たちのように一日中買物をした後で今にも紐が切れそうな色々な大きさの紙包みを携えてのろのろと歩かなくて済みます。風呂敷があったら、私がこれまで運んだものの中で最も恥ずかしい思いをしたものもうまく包み隠せたでしょう。その品物とは戦後の物価高の時代にどこかで安く手に入れた生の大きな鱈で、包みの新聞紙が破れてしまい魚をむき出しのままバスに乗って家に持ち帰ったのでした(本文P.94)。

靴、靴下、石けん、食料品売場を通って出口に向かう時に地下の特売場をちょっとのぞいて御覧なさい。イギリスの真似をして、上の階で売られているのと同じような商品がもっと安い値段で売られています。押し合う女性と背中におぶわれた赤ん坊で大混雑でとても入る気にはなりません。営利主義の網にかかったとも知らずに喜んでいる赤ん坊、お上りさん、観光客、慎ましい主婦、浪費家たちを後にして、私たちはそろそろ店を出ることにしましょう(本文P.100)。

礼儀作法について。

日本人のお辞儀は素敵です。私たちのように上半身をちょこっと曲げるのではなくて、腰から深々と身をかがめます。日本人は人と出会った時や別れるときに、お辞儀をしてその場にふさわしい挨拶を交わします。両社の身分が同じ場合は、彼らの身分にふさわしいお辞儀と挨拶をします。一方が目上の場合には、目上の人のお辞儀が終わっても、目下の者はまだお辞儀をしています。そして、目上の人がもう一度軽くお辞儀をすると、目下の人がもう一度深く頭を下げて挨拶は終了し、二人は普通の人間に戻ります。誰かを見送った後に、同じ身分の女性あるいは男性が顏を合わせた時の挨拶はもっと複雑で、外国人には理解不可能です。中略。
日本人の礼儀作法は、事物の体系の中で自分が取るに足らない存在であることを強調します。相手と比べて自分はつまらない人間であるから、自分の方が相手より深く長くお辞儀をしなくてはいけないのです。そうはいっても、お辞儀をしている間に考古学でいう地質時代が過ぎて、自分たちが化石になってしまっては困るというのであれば、どこかでお辞儀を止めなくてはなりません。そこでちらっと相手の眼を見るのです(本文P.108-P.109)。

日本人を理解する唯一の方法は、他の国民を理解する時と全く同じで、まず相手に同情をよせ、そうしているうちに相手が好きになることです。日本人は外国人にとでも親切ですから、私たちに誤った先入観さえなければ、多くの日本人と友達になることができます。世界のあちらで過激な国家主義が台頭している今日、日本人もその影響を受けて懐疑的で神経質になっていますが、それでも公私のつき合いを通じて日本人と親しくなる機会は無数にあります(P.119)

樹木と庭師について。

ここでは著者の音楽的素養が顔を出す。著者の新居で庭造りをした時の様子。
庭師は庭の前のテラスに立つと、足を踏みしめ、腕をわずかに曲げ、両手を拡げてしばらくじっと眺めていました。弟子たちに指示を与える時だけ体がわずかに動くのでした。庭師は、自分が木になったつもりで、配置を考えていたのでした。そのうちに彼は、オーケストラの指揮者のように、身ぶり手ぶりで弟子たちに指示を与え始めたのです。オーボエにうなずき、第二バイオリンにもう少し元気よく、トランペットに一杯吹くように合図し、チェロの音が大きすぎると怒って睨む・・・それはもう見ていてわくわくする演技でした。かの名指揮者トーマス・ビーチャム卿さながでした。この庭師は前任者ほど厳格ではなく、時には私たちをテラスに立たせ、彼が木を抱え、ほんのわずかな違いでしたが、こことそこのどちらに植えるかを私たちに決めさせてくれました。位置が決まると、彼の指令下に部下たちが木に土をかけて植えつけが終了したのです(本文P.128-P.129)。
筆者が驚いたのは著者の造園に対する好奇心と事こまめに書き記す観察眼の鋭さだ。この造園に対する著者の愛着は、イギリスの田園地帯に育ったことだけではなく、父の花より樹木が大切と教えられたことにも関係があるかも知れない。そして圧巻は庭師たちの仕事ぶりをオーケストラに例えて綴る・・・。<続く>

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