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超人の面白読書 95 ノルウェーのベストセラー作家クナウスゴルドの最新作『Min Kamp』(English title : My Struggle)“わが闘争”の紹介や書評を読む 20

あなたはスラセンジャーのテニスラケット、トレトンのボール、ロシ二ョールのスキー板、チロリアビンディングやコフラックのスキーブーツがまだ買えた。私たちが住んでいた家はまだすべて立っていた。唯一の違いは子どものリアリティと大人のリアリティの違いで、それはもはや意味など帯びていなかった。ルコックのサッカーブーツの一組はサッカーブーツの一組なのだ。私が両手で一組掴むときすべてを感じるとすれば、他に何もなく、それ自身何にもない、自分の子どもの時期の単なる名残にすぎなかった。海、岩、夏の日々を飽和するまで満たしてくれた塩の味も同じだった。物語の終わり、それは塩だった。世界は同じ、いや、そうでもなかった。というのは、その意味は置き換えられて、未だに置き換えられている。無意味へ更に近づきながら。

もう一度作者の心を切り込んでいる遊びの感覚を変えるためには長く引用することが重要だ。しかしパッサージュがこの長編の鍵を握る理由でもあるのだ。
クナウスゴルドの世界は日常の冒険である。かつて子どもが体験したような日常の無尽(「夏の日々を飽和するまで満たしてくれた塩の味」)ーは着々と後退している。物や対象物や感覚は無意味に向かって進む。このような世界ではこの遅い後退からの冒険を救済することだ。意味、色彩それに人生をサッカーブーツ、草、クレーン、木や空港、ギブソンのギターやローランドのアンプそれにアジャックスへ連れ戻すこと。クナウスゴルドが父親の死体を二度見ることが必要だと分かる理由だと私は思う。最初に、彼は兄と引受所の教会へ行く。父親はまだ生きているようにみえる。外では芝生を刈っている。騒音が死体を呼び起こす期待が強くて彼はひるまざるをえない。次に、彼は孤独だ。父親が一つの物や対象物に変わっていく。このことで作者に慰めの感情が湧いてくる。

今私は気の抜けた状態を見た。かつて父親だったことと彼が横たわっていたテーブルとの違い、テーブルがあった床、窓の下の壁ソケット、彼のそばのランプへ繋がっているケーブルにはもはや違いはなかった。というのは、人間は多くの中にある一つの形式にすぎない。世界は次から次と再生産するのだ。生きて行くことだけでなく、生きていないことも。砂や石や水に描かれて。そうして死ー私がいつも暗く強制的な人生の最も偉大な次元と見ているーは所詮漏れを跳ね返すパイプ、風で折れる木の枝、ハンガーから滑って床に落ちる衣服にすぎないのだ。

これが本の結論的な文章である。落ち着き払い、平坦に仕上げられている。ヴァルター・ベンヤミンのいう「真実や知恵の叙事詩側」だ。「クナウスゴルドにとって喪に服することは結局全ての物を受け入れることだ。物のようにだ。私たちが認識し愛し憎んだ人々さえ徐々に自分たちの意味を漏らすはずだ。結局死と生は日常では繋がっていて一体になっているのだ。

やっと私訳の終了だ。8月中旬の「ニューヨーカー」電子版で見つけてからほぼ一ヶ月、朝の通勤電車の中でコツコツと訳した。評者のことは後ほど触れたい。
さて、そろそろノーベル賞の季節、村上春樹の受賞がまた騒がれているが・・・・。

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