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超人の面白読書 93 田中慎弥著『共喰い』 3

「共喰い」とは動物界で個体が同種の他の個体を食べること。共食い現象とかいう。この短編は濃厚なイメージとそれを膨らませる描写力に優れていて、リアルさ、生臭さを圧倒しているようにみえる。血と性の題材と言えば、筆者がまず思い浮かべる作家に三浦哲郎と中上健次がいる。八戸、新宮そして、田中慎弥の下関、地霊までは行かなくとも独特の地方の臭いがある。それは血縁という家族の持つ繋がりの因果から更に茂みに分け入った性、陰湿なまでの近親相関図だが、地方の臭いが漂う。お主そこまでやるか、とタブーに挑戦した格好だ。いや、どうしても作者が通り過ぎることのできないテーマなのだ。

川のようになった道を、一歩一歩を重たく引き抜きながら走る。夕暮の、鈍い黄土色の雲が空を埋めている。あたりの雨樋や溝、マンホールから水が溢れるごぼごぼという音が聞こえ、流れ出してきた下水がにおい、泥や石、植木鉢が流れてき、鼠や虫や蛙がもがきながら消えてゆく 。
水を割ってアスファルトを踏む下駄の音が聞こえ、少ない髪が赤ん坊のように額に張りついている父が歩いてくるのが見えた。
「遠馬あ、遠馬あ。」声まで幼くなって、「琴子がおらんそじゃあ、どこ探しても。」
「千種は?千種はどうしたんか。社でなにしよったんか。」(続く)

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