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超人の面白読書 91 羽田 正著『新しい世界史へ―地球市民のための構想』

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中東情勢が依然として不安定な現在、「イスラ―ム世界」の歴史が専門の研究者の手による『新しい世界史へ―地球市民のための構想』(岩波新書 2011.9)が刊行され、ようやく昨日読み終えた。蛍光ペンで線を引きながら。筆者が目下構想中の企画に確かな手応えを与えそうな好著だ。ある先生に、先生、この本面白いですよと勧めたら、即座に君のそれ、頂きと取り上げられてしまった本でもある。しかしそのあと買い直した本を読みかけたまま鞄の中に入れ20日間以上も放っておいた。その間小雑誌他数冊を読んでいた。
最近では珍しいことだが、大型書店の店頭には世界史の本やら日本史の本が何冊も平積みされていて、中でもカナダ人が40年も前に書いた『世界史』(著者はカナダ生まれの元シカゴ大学歴史学教授ウィリアム・H・マクニール、文化人類学者増田義郎・比較文学者佐々木昭夫共訳。世界情勢の変化に伴い、内容が一新された改訂第4版の翻訳本。中公文庫上下 各1400円)という本が目下30万部以上売れているという。客層は30代〜50代のサラリーマン、その魅力は世界史を流れで把握できることらしいことと暗記しなければならない読みづらいカタカナが少ないから…。

さて、本書は今までの西洋史から脱却して、世界史へ―地球市民のための構想を打ち出し、新しい世界歴史叙述のあり方を提案した画期的な一冊である。世界歴史を今までのように一元的(権力者側)に捉えるのではなく、見方を変えて多面的に捉え直そうとする枠組み作りだ。
著者も現在の世界史の語り方、理解の仕方に疑問を抱き、新しい世界史をどのように記せば良いのかについて、ここ数年試行錯誤してきた私の思索の中間報告である(はしがき)、と書いている。

序章 歴史の力

第一章 世界史の歴史をたどる
1 現代日本の世界史
2 戦前日本の歴史認識
3 世界史の誕生
4 日本国民の世界史

第二章 今の世界史のどこが問題か?
1 それぞれの世界史
2 現状を追認する世界史
3 ヨーロッパ中心史観

第三章 新しい世界史への道
1 新しい世界史の魅力
2 ヨーロッパ中心史観を超える
3 他の中心史観も超える
4 中心と周縁
5 関係性と相関性の発見

第四章 新しい世界史の構想
1 新しい世界史のために
2 三つの方法
3 世界の見取り図を描く
4 時系列史にこだわらない
5 横につなぐ歴史を意識する
6 新しい解釈へ

終章 近代知の刷新

あとがき

以上が220ページの新書版の目次。言うまでもないが、これで大方の内容は予想つく。序章で著者は次のように書く。

現代日本において、歴史理解を生み出す源であるはずの歴史学と歴史研究者に元気がない。中略。最も大きな原因は、一般の人々が求める歴史像と歴史研究者が生み出す研究成果の間に、無視できないずれが生じているということではないだろうか。歴史研究者は着実に仕事をしているのだが、それが一般の人々の心に響かなくなっているのだ。中略。人々が自らの問題としてそれを真剣に議論し、新しい歴史認識を生み出そうとしたときに、それが力となって、時代の歯車が一つ回る。いま歴史学者に必要なのは、学界の「常識」に忠実に従うことではなく、時代にふさわしい過去の見方を思い切って提案することだ。

第一章 世界史の歴史をたどる では、現在使われている高校の世界史の教科書二冊の“学習指導要領”を具体的かつ丹念に読み込みんで行き、次の2点を導き出す。

①世界は異なった複数の部分から形成されており、それぞれ異なった歴史を持っていること。②複数の部分のうちで、ヨーロッパ文明世界とそこから生まれた諸国家が他より優位にあり、実質的に世界史を動かしてきたこと。
世界史とは、異なったいくつかの文明世界、ないし国家の時系列に沿った歴史を束にして、全体を紐で縛ったようなものとして理解される。

このような世界史の見方がどのように形成されたか。明治の日本までさかのぼって、その歴史学と歴史教育の歴史を探る。〈つづく〉


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