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超人の面白読書 87 雑誌『文學界』2011年5月号掲載の津村節子作「紅梅」を読む 3

 夫の書斎の前には紅梅が咲いて鶯も鳴いている。
 CT検査が出るまで吉祥寺の書店で育子の自選集のサイン会、その足で夫と仲間の例会に出席する。年長者の自分たちだがより若い人が病に倒れていることに驚く。
 CT検査の結果夫が舌癌と判明、入院。入院中放射線科の隔離室に23日もいて、3月下旬に退院する。その間退屈だったのかゲラ送りのこと、お手伝いさんの給料や昇給のことなど雑事を気にする。退院後は自宅で静養、その間同人雑誌主宰でお世話になった作家の丹羽文雄おぼしき丹生氏死去の報、息子や娘夫婦が快気祝をしてくれるなど取り戻した日常が描かれるが、定期健診の結果再入院。病室では粒子を入れる紙袋に1.痛み、刺入部の腫れ 2.つばが多くなる 3.刺入後の粘膜の炎症などの症状メモ。放射線の被爆を完全に抑えるための注意も。3日間で退院するも痩せた夫を見て、果たして快方に向かうのかと育子は不安がる。やはりあそこは牢獄と呟く。
 友人の文学賞受賞式出席後、丹生夫人に勧めれて仕事用に購入した越後湯沢のマンションでささやかな休息を取る。

「越後湯沢のマンションも買っていて良かったわね」と育子。
「そうだな」と夫。
「吉祥寺の家も気に入ったでしょう。私は不動産の勘がいいのよ」と半ば自慢気の育子の話しに、
「わかってるよ、だけど2区画買えと言うのは乱暴だった」と夫。
「結果として良かったじゃない。何とかなると思ったのよ」と育子。
「おまえはそういう女だよ」。夫は呆れていた。そういう女とはどういう女だというのだろう。

 男と女、しかも一つ違い、読者も性格が想像できよう。
結婚当初のアパート暮らしと引っ越しの繰り返し、大学中退で結核で死に損なった身、兄の紡績会社勤めも辞め、メリヤス製品を持って東北や北海道での行商の日々を回想する。

 北海道は鰊が来なくなった上にその年は冷害で、不景気だった。かつて繁栄した根室は、余映が残っているだけに一層わびしく、風呂屋にポスターを貼りに行った帰り風が吹きつける夜の海岸で、吹き飛ばされそうになった育子は夫のコートにしがみつき、死んでしまいたい、と言った。

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