« 超人の面白読書 72 村上春樹著『風の歌を聴け』 1 | トップページ | 10月の風 »

超人の面白読書 72 村上春樹著『風の歌を聴け』 2

 20100925143430_00001
 村上春樹作品は話題になると購入して少しは読むが、いつも読了せず読みかけで終わってしまい、本棚に飾られてしまう。『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『ノルウェーの森』、『海辺のカフカ』、『1Q84』など。それは何だろうなと最近考えるようになった。軽さ故か、タッチが違うのか、プロットについていけないのか、生活感がなく都会と戯れている書き方にか、女の描き方や小説の装置に違和感を感じてかなど逐一揚げればきりがない。村上春樹は初期の恋愛のテーマから地下鉄サリン事件を扱ったあたりから社会システムと個人に移り、今後は総合小説を目指しているそうだ。
 村上春樹自身は、両親が国語教師で読書環境に恵まれていたらしく(書店でツケで本を購入することを親から許可されていた!)、小さいときから日本の古典や文学を読まされて育ったといわれている。そんな家庭環境がうんざりだったのか、高校生の時分から外国文学特にアメリカ文学をペーパーバックで読んでいたらしい。 
 まだ翻訳されていない処女作『風の歌を聴け』(未熟な作品と本人が拒否している)を文庫本で読んだ。 恥じることはないが、筆者は今までこの本を読んでいなかった!過去何度か途中まで読んだが放り出した。今回の文庫も国際文化交流基金の雑誌『遠近をちこち』(今は休刊)の特集「世界は村上春樹をどう読んだか」(2006年8月)を読んでか、あるいは何かの理由で何冊か買い溜めした1冊だ。のらないと放り出しておくタイプなので手に取るまでに時間がかかる。そうかと思うとすぐに読了してしまう本もあるから不思議だ。同時平行で読んでいる本、雑誌や新聞の切り抜きなど常時何冊かは抱え込んでる状態だ。
 村上春樹の『風の歌を聴け』は、誰もが抱く青春の1ページを甘美にやや叙情的に描いた小説である。その文体にはアメリカの現代小説の影響が読み取れるが、乾いたタッチや軽快な流れは、さながら映画のシーンを見ている感じで爽快感もある。表面的には素っ頓狂を装う主人公の僕だが、意外と内面注視もしている。繊細さや優しさもあり、高笑いはないが静かでクールなユーモアが横たわっている。男女間にしてもある距離感がある。友人鼠との他愛ない日常の会話、あるバーで知り合った女との距離がだんだんと縮まっていく様は、気だるくも軽妙な男女の会話に象徴されるが、喪失感と甘酸っぱさが漂う。好きな作家の言葉が挿入され、自分探しに一役買うように仕向けられている。それにしても主人公の「僕」と彼の友人「鼠」は、ビールを全部で何本飲んだか、そちらの装置が気になる。ついでに飲み干した本数まで書いてくれると良かった。銘柄はバドワイザー、否、ロックかと訊ねてみたくなる。
 主人公の僕は、夏休みにある海辺の街のバーで友人の鼠に会う。また、そのバーで指が1本足りない女と知り合いになる。主人公の僕は、いろいろなほろ苦い体験をした後、夏休みを終えてまた、学生生活に戻って行く。よくあるパターンの通りすがりの恋だ。これが文庫本で160ページのあらすじである。読みやすい文章だからといって全てを理解できたとは限らないのだ。そこにはある種の仕掛けが施されている。例えば、主人公は僕だが、2回ほど注意深く読んでいくと、友人鼠は恐らく作者の分身だろうと推測できる。一人称と三人称の入れ替えによって生じるズレを楽しんで書いているかのようだし、小説の構成も、ご丁寧にアメリカンスタイルの典型的なTシャツの絵まで挿入されていて、活字の中の絵は効果満点だ。垢抜けている感じだ。架空の人物、アメリカの現代作家のデレク・ハートフィールドのメッセージも計算されていてあとがきまである周到さ。この知的装置は俗っぽさを抑えている。ラジオDJの語り口、アメリカカンポップス、ロックにクラシックなどのレコードの話、女との俗っぽい会話、ジェイズ・バーを中心に動いて行くシチュエーション、アルコールは人間の有様をみるものさしなど青春のアバンチュールと危うさが装置よろしく仕掛けられている。
 危なくハートフィールドには騙されるところだった。ラジオDJの語り口といい、ハートフィールドの人物作成といい、良く出来ている。人を引き込ませる才知にたけている。

君は屈託した男の、
風の音を聴いた?

■「群像」(1979年6月号)に載った第22回群像新人文学賞受賞者村上春樹氏の受賞のことば
 学校を出て以来殆んどペンを取ったこともなかったので、初めのうち文章を書くのにひどく手間取った。フィツジェラルドの「他人と違う何かを語りたければ、他人と違った言葉で語れ」という文句だけが僕の頼りだったけれど、そんなことが簡単に出来るわけはない。40歳になれば少しはましなものが書けるさ、と思い続けながら書いた。今でもそう思っている。
 受賞したことは非常に嬉しいけれど、形のあるものだけにこだわりたくないし、またもうそういった歳でもないと思う。

因みに選考委員は佐々木基一、佐多稲子、島尾敏雄、丸谷才一と吉行淳之介。この新人の登場は一つの事件(丸谷才一のコメント)やあえていえば近来の収穫(吉行淳之介のコメント)との評。

|

« 超人の面白読書 72 村上春樹著『風の歌を聴け』 1 | トップページ | 10月の風 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/77059/49567885

この記事へのトラックバック一覧です: 超人の面白読書 72 村上春樹著『風の歌を聴け』 2:

« 超人の面白読書 72 村上春樹著『風の歌を聴け』 1 | トップページ | 10月の風 »