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超人の面白読書 57 西成彦著『世界文学のなかの『舞姫』』後編

 早速西成彦著『世界文学のなかの『舞姫』』の目次を覗いてみよう。

まえがき

テクスト―森鴎外『舞姫』

第1回 南米の太田豊太郎

第2回 エリスの面影とともに生きる

第3回 『舞姫』から120年

 このみすず書房の《理想の教室》シリーズは、ライヴ感覚の言葉による書き下ろしで高校生が読んでもわかりやすく作られている新シリーズだ。他には佐々木幹郎著『中原中也 悲しみからはじまる』をはじめ6点を刊行。安価で手軽、通勤電車のなかで1往復で読めてしまうほどだ。筆者は寝転んで読んだ。

 カイゼル髭風の森鴎外―若いときの哲学者の西周(森鴎外とは親戚で影響を受けた人。「哲学」なる言葉を編み出した人としても有名)と並んでいる写真とは大分違う―の小説。高校時分の現代国語の時間に『阿部一族』だか『山椒大夫』だか歴史小説と思うが、漢字が多く難しい作品だったと記憶している。テキスト読解より担当の若い色気のあるH先生の顔と細い声それに毎日変わる服装の方が妙に印象に残っているのだ。ということで森鴎外の作品は正直言って苦手だった。むしろ漱石の方が入りやすかった。

 巻末の読書案内には『舞姫』に関する文献が並んでいる。長谷川泉(編)『森鴎外 『舞姫』作品論集』、小金井喜美子『森鴎外の系族』、小堀杏奴『晩年の父』、森於兎『父親としての森鴎外』、荻原雄一(編)『舞姫―エリス・ユダヤ人論』、小平克『森鴎外論―「エリーゼ来日事件」の隠された真相』、林尚孝『仮面の人・森鴎外―「エリーゼ来日」三日間の謎』、植木哲『新説 鴎外の恋人エリス』、西成彦『胸さわぎの鴎外』。著者もコメントを施しているが、特に注目は小金井喜美子『森鴎外の系族』、荻原雄一(編)『舞姫―エリス・ユダヤ人論』、西成彦『胸さわぎの鴎外』だろうか。

 著者は比較文学、ポーランド文学専攻の学者だけあって、この『舞姫』の位置づけもタイトル名にあるように世界文学のコンテクストに置かれている。そこが興味をそそられるところだ。その典型は第1回 南米の太田豊太郎の章だろう。 著者がサンパウロで「日本人の海外進出と移民文学」と題して講演した後、ブエノスアイレス在住の日系人から「南米の太田豊太郎」とも言うべきアルゼンチン移民の草分けが実在したとの情報提供を受ける。島崎藤村の紀行文『巡礼』に書かれている「I博士」 こと伊藤清蔵は、ドイツ留学中にドイツ人女性と恋仲になり、一旦は帰国、後再会して南米アルゼンチンに移住。専門の農業経営学の実戦を試み、アルゼンチンでも有名な牧場主になって幸せに暮らしたとのこと。著者はこの南米アルゼンチンの話を聞かされて、改めて『舞姫』を読み返したらしい。そしてこう書く。

 太田豊太郎だって、完全にエリスを見捨てたとは決まっていない。そこはさすが小説の達人だけのことはあります。鴎外は、肝腎なところを曖昧にぼかしながら、宙ぶらりんの形で物語を終わらせているのです。(註。筆者―なるほど、鴎外はぼかしたか―)それでは鴎外はなぜ『舞姫』を書いたのか、夫婦関係の安定化を図る意味、ドイツ人女性に寄せる未練をひけらかして、開き直ったのか。
著者も真相は分からないという。
 この3回の講義の最後に著者は文学は、書かれていることを読むだけではなく、書かれないまま放置された部分を読者が補足していく読みもまた求めていますと締括っている。
その他男性の性欲の対処方法を論じた「性欲雑説」、『ヴィタ・セクスアリス』、ジャパニーズ・ディアスポラ、『舞姫』異聞―湯浅克衛『カンナニ』、『舞姫』の基本構造、「舞姫論争」など興味が尽きない。この150ページ足らずの本は森鴎外『舞姫』のあらたな読みを提供してくれているのだ。世界文学のなかで。

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