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超人の面白読書 59 第140回芥川賞受賞作品 津村記久子著『ポトスライムの船』

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『ポトスライムの船』は2008年11月号の文芸誌「群像」に本の題名になっている「ポトスライムの船」それに同誌2007年1月に載った「十二月の窓辺」」からなる190ページ足らずの本。
 年収163万円のアラサー女性のつましかな生き方を描いた一見どこにでもあるストーリーを取り上げた、“ジミーオオニシ”も驚く関西版青春小説だ。主人公の派遣社員のナガセはバイト先の店、パソコン教室の講師そして工場のラインで働く独身女性だ。工場に貼ってあった163万円で行ける世界一周旅行、これで南太平洋のパプアニューギニアあたりでカヌーを漕ぐことを夢見て働き貯蓄に励む。時折財布を眺めては消費の実態を把握しながら倹約をしている。ライン勤め、パソコン教室の講師、夜のアルバイトそれでも年収は163万円、これは少なすぎるくらいだ。そこに奈良の実家に離婚した子持ちの女友達が転がり込む。母親と一緒に暮らしているナガセは、友達の子どもが母親が可愛がるのをみて自分が早く結婚してほしいと思っていると感じる。アルバイト先、職場そして家にも観葉植物の「ポトスライム」、その観葉植物を水差しすることで根を張り、葉を出し更に新芽が出ることの楽しみを何よりも生き甲斐としている。癒されるからだ。実は作者は、その瓶の向こうに見える日常を見ていたのかも知れない。じっと耐える日常を―。

 もうひとつの作品は『十二月の窓辺』。職場のパワーハラスメントを扱ったややシビアな小説。これもどこにでもありそうな職場の出来事だが、ここには作者の実体験に基づいたと思われる確かな社会を見る眼がある。その眼は女性のしなやかだが観察の鋭い眼だ。心の葛藤などを描いた心理描写も巧み。
 文章は関西弁を駆使してやわらかさを出しているけれども、特に難解さはなくむしろ、平淡。個人的すぎる日常の断片を描いただけにみえる『ポトスライムの船』に対して、『十二月の窓辺』は社会への眼差しがある。
 途中投げ出したりして多少読むのに手間取った。あっと驚くストーリー展開もなく想定内。地味過ぎて面白さに多少欠けているのだ。ただ文章の流れはある一定のリズムがあって心地よい。カタカナの表現の多用は、作者のインタビューの記事によれば、自分の文章はあまり行分けしていないので、やわらかいイメージを出したかったためと語っている。それにしても次の描写はどこかで見た光景だ。もちろんフィクションだが―。
 
 寺社町の火曜の夜のカフェは暇で、ヨシカは明日の早朝に出す分のスコーンを成形して、冷蔵庫にしまった後は、ずっとパソコンに向かって顧客向けのメールマガジンの草稿を書いていた。ナガセも、入口にやってきた客からは見えないソファに座って、ポップアップ絵本の作り方についての英語の本を眺めていた。

筆者等が訪ねたとき、このソファには大谷大学の先生二人が座って議論していた(一人はフランス人と店主が教えてくれたのだ)。

 作者津村記久子氏は1978年大阪生まれ。2005年「マンイーター」で第21回太宰治賞受賞。2008年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で第30回野間文芸新人賞受賞。『君は永遠にそいつらより若い』、『カソウスキの行方』、『婚礼、葬礼、その他』、『アレグリアとは仕事ができない』など。今年の1月下旬に『ポトスライムの船』で第140回芥川賞受賞。

 そう言えば、今は無き、我が生涯の師、種村季弘の御魂にこの書を捧ぐ、と書いた諏訪哲史著『アサッテの人』(第137回芥川賞受賞作品)は、「ポンパ、ポンパ、・・・ポンパなんだポンパ、であります、・・・ポンパ、そう、いやポンパに違いない・・・」のところで中断中だ。読むのを忘れていたのだ。"ポンパ"の彼はすでに最近の「群像」などで精力的に作品を発表している。

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