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超人の面白読書 58 今日の新聞書評斜め読みほか

 昨日日文研主催の東京講演会(第18回)「日本文化を考える」の後半部分、末木文美士国際日本文化研究センター教授の「日本仏教を見直す」を有楽町朝日ホールで聴いた。『仏典をよむ 死からはじまる仏教史』(新潮社 2009年)や『他者/死者/私』(岩波書店 2007年)などの著書をもつ仏教学者だが、1時間少しの講演は仏教を解りやすく語ってくれたことだ。1、仏教史をどう見るか、2、日本の仏教をどう見るかが講演のあらまし。以前に大江健三郎賞の講演会でも曼荼羅が取り上げられていたが、ここでも日本宗教に基づく世界観の基本的枠組み(世界観の曼荼羅)をスキームで説明していた。存在しているいないかが問題ではなく、死者とどう関わって行くかが問題だと提起していたことが印象的だ。そして、仏教における開祖中心主義は一度解散した方がよろしいと言い、また,仏典解釈だけに終始するのではなく、自ら考えることが大切だと語った。ここには宗派的な偏見に陥らず、自由な目で見て欲しい講演者の意図が読み取れたような気がした。
閑話休題。
 久し振りに新聞書評欄の渉猟を試みた。毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、東京新聞の各紙。村上春樹の久々の長編小説『1Q84』(新潮社 2009年5月下旬刊 上下各本体1800円)Img075
がバカ売れらしい。上下合わせて96万部以上、単純に960000×1800として本体価格で17億円以上だ。わずか1週間足らずでだ。アマゾンでは予約が1万部に達したそうだ。版元の新潮社は内容を極秘で宣伝(もっとも原稿入手してから1年もの間いろいろと周到なやり取りがあったらしい)、一種の市場の飢餓感を煽ったようだ。早速読売新聞の書評欄「本よみうり堂」は、若手作家の小野正嗣氏と分子生物学者福岡伸一氏の競作書評を載せている。途方もない愛の物語とか一つ一つの人生を自分の物語として自分で語りなおすこと、しかも重要なのは、その均衡は動的なものとして可能性のありかを示すと読んだそれぞれ。朝日新聞書評も翻訳家鴻巣友季子氏のやや長い書評を載せている(実は見落としていたのだ !)。筆者はまだ最初の5,6ページを読んだばかりだ。何やらジョージ・オーウェルの『1984』を思い起こす。早くも不況からの脱出口を見つけようと関連ビジネスが動き出したようだ。レコード会社のコロンビアはチェコの作曲家ヤナーチェクのCD「シンフォニエッタ」を増産するらしい。漢字読みや経済ノウハウものがベストセラーの今年の前半期、さてさてどこまで伸びて社会現象化を起こすか、注目の一冊だろう。

日経新聞書評欄
①『世界は村上春樹をどう読むか』四方田犬彦ほか編(文春文庫 657円)
2006年東大駒場キャンパスで行われた国際シンポ「春樹をめぐる冒険」の記録集。

②今橋理子著『秋田蘭画の近代』(東大出版会 6500円)
小野田直武の描いた傑作「不忍池図」がライトモチーフの本書は秋田蘭画に関する本格的な研究書。

③岸田夏子著『麗子と麗子像』(求龍堂 3000円)
石橋美術館にある「麗子像」、本物の迫力があった。また、ごく最近でもテレビ東京の「美の巨人たち」でも取り上げていたが、岸田劉生はなかなかの人物だったようだ。誤解を招いたその実像に孫の画家が挑む楽しい本。

 しかしここまで拾い読みしたが、やはり最近の出版不況の話を思いつくままに少し。
いろいろと原因は何なのかと自分なりに考えてきたつもりでいるが、日経新聞の書評囲み記事「活字の海で」を読んでいたら、思想誌「大航海」や「国文学」も休刊。同じ思いがこの欄の文芸評論家三浦雅士氏の言葉に象徴されていることを発見したのだ。「世界の変容」と語る。「経済が文化の下部構造という位置づけを超えて全面化し、文化は顧みられなくなった。この地殻変動の衝撃はあまりにも大きく、あまりにも深刻」。人が生き方の規範や価値、知的な楽しみを活字メディアに求める時代は過ぎ去ったと三浦は見る。筆者も相対化や知の低準化が起こっていて、ニヒリズム的気配に汚染されていると見る。今の政治、経済や社会の閉塞感と大いに相関関係にあるのは確かだ。また、活字メディアの媒体変化もそれに輪をかけているようで、一方で巨大化する割には業界全体としては足腰が弱まるばかりで体力維持ができにくい状態だ。そんな中にも、京都の本屋グループの読者掘り起こしの試みや大手ナショナルチェーンの若手のアイデアによるコーナー作りで成果をあげていることを知るにつけまだまだ捨てたものではないと思うのだ。(朝日新聞書評欄の"本の裏側"などを読んで)かつての70年代前半から20年あまりの書店員だった人たちが、少しずつ書き手の方に露出し始めているが(朝日新聞出版のPR雑誌「一冊の本」の最近の号をみよ)、時代状況は一変したのだと思う。価値観が変わったのだ。それでも本の価値を広めて精神生活を豊かにする本質的な意味は、近代経済合理性だけの世界だけではない、もう一つの世界に屯する人間の本質を自ら読み解く人間的な営為によりどころを見出すからだろう。そんなに悲観的になってどうする、ある種の楽観も必要だろう。それは可能性にかけるということだ。

毎日新聞書評欄
④鹿島茂著『吉本隆明1968』(平凡社新書 1008円)
評者松原隆一郎の評と見出しの「なぜ偉いか 申し子世代が詳細に注解」で事足りよう。

⑤松田哲夫著『「王様のブランチ」ブックガイド200』(小学館101新書 740円)
最近のベストセラーの火付け役的存在の著者が厳選した200冊。

東京新聞書評
⑥柄谷行人著『柄谷行人 政治を語る』(図書新聞 1575円)
作家・歌人の小嵐九八郎との対談集。思考の歩みを時代を追ってたどれる構成。

朝日新聞書評欄
⑦村上春樹著『1Q84』(新潮社 上下各本体1800円)
メランコリーの夜は明けたと書く評者の翻訳家・鴻巣友季子氏。村上ワールドへの誘い―。
 まずは読破だ。
朝日書評欄の紙面が変わった。もっともっと充実化を図って欲しいものだ。

■最近買い込んだ書籍や雑誌

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●週刊朝日緊急増刊「朝日ジャーナル 創刊50年 怒りの復活」(朝日新聞出版 490円)
この表紙を見て驚嘆、筆者が20代に出した詩集の表紙Img082_4
にそっくりなのだ。
 社会学者見田宗介をはじめ、浅田彰、宇野常寛、東浩紀、柄谷行人、鶴見俊輔、蒲島郁夫(なかなかよかった)、湯浅誠、赤木智弘、吉岡忍、中森明夫、辻元清美、秋元康他多数参加。「格差」や「貧困」の世に蘇った朝日ジャーナル。

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●G・C・スピヴァク著鵜飼哲監修『スピヴァク、日本で語る』(みすず書房 本体2200円)
2007年一橋大学で行われたコロンビア大学比較文学社会センター長G・C・スピヴァク氏の講演集。

最後に海の向こうでの書店の話を一つ付け加えておこう。
昨年5月ニューヨークのマンハッタンにオープンした旅行書と無名の外国書籍に特化した書店。5番街19丁目にある『アイドルワイルド』(この名前はJFK空港の旧名)。今年一月以来、2けた成長を続けている。この書店の特徴は、個人のニーズにあわせた個別サービスだとか。差別化して生き残りをはかるアメリカの独立系書店だ。
【from The Japan Times Weekly June 6, 2009】

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