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超人の面白読書 44 雑誌「新潮」8月号 水村美苗 特別評論 日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で 

 2,3日前の毎日新聞朝刊一面下のヤツワリの広告欄に文芸雑誌「新潮」8月号の広告が載っていた。久しぶりに刺激的な表題の評論と思い飛びついたのだ。
 水村美苗―筆者には久しく忘れかけていた作家だった―は確か17年前の1991年に漱石の『明暗』の続きをその文体を借りて書いた『續明暗』(筑摩書房)でデビューした。遅いデビューだったが、海外帰国子女ということも手伝って当時大分話題になった女性だ。あれから『本格小説』(新潮社)、『私小説 from left to right』(新潮社)、作家辻邦生との往復書簡『手紙、栞を添えて』(朝日文庫)刊行、芸術選奨新人賞、野間文芸新人賞、読売文学賞と次々に賞も取っている、決して多産的な作家ではないが本格派の小説家だ。そしてこの「新潮」8月号に掲載されている「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」があと4章加筆されて筑摩書房から今秋に刊行されるという。また、この作家のweb siteでは来年の読売新聞の新聞小説連載も決まっており、離婚を考えている女性をテーマに箱根周辺を舞台に描くことまで書かれていた。
 「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」は123ページから209ページまで86ページもある評論だが、この作家特有の英語との関わりの中で日本近代文学を考えることがテーマである。もちろんいろんなところですでに書かれて来ていることなのだが、12歳で父親の仕事でニューヨークのロングアイランドに住み、アメリカの東海岸の典型的な教育を受けて育つが、英語嫌いでその反動かもしれないが、家では1926年(大正15年)発行の改造版の『日本文学全集』を読み耽っていたらしい(こういう古い本を赴任先まで持っていく父親も凄いが)。おかげで夏目漱石の小説などは暗記しているほどだ。
 2003年アイオワ大学国際創作プログラム(IWP: International Writing Program) 招聘作家として参加したときの様子から書き出し、<自分たちの言葉で書く人々>が1章、最近の自分の健康状態、大学のことをはじめ、そこには事細かく大学が用意したホテルでの1ヶ月間の人間模様がこの作家特有の観察眼で描かれている。特に印象に残ったのはモンゴル人の、ウクライナ人の、リトアニア人の、アルゼンチン人の、ミャンマー人の、ボツワナ人の、中国人の、韓国人の、ポーランド人の、ノルウェー人の作家を語る彼女特有のことばに関するsensibilityである。そして1章は英語が<普遍語>になるとは、どういうことかの命題を引き出して次のように書く。

 それは、英語圏をのぞいたすべての言語圏において、母語と英語という、二つの言葉を必要とされる機会が増える。すなわち、母語と英語という二つの言葉を使う人が増えていくことにほかならない。そのような人たちが今よりはるかに増え、また、そのような人たちが今よりはるかに重要になる状態が、百年、二百年続いたとする。そのとき、英語以外の諸々の言葉が影響を受けずに済むことはありえないであろう。ある民族は<自分たちの言葉>をより大切にするかもしれない。だが、ある民族は、悲しくも、<自分たちの言葉>が「亡びる」のを、手をこまねいて見ているだけかもしれない。中略。私が言う「亡びる」とは、言語学者とは別の意味である。それは、ひとつの書き言葉が、あるとき空を駆けるような高みに達し、高らかに世界をも自分をも謳いあげ、やがてはそのときの記憶さえ失ってしまうほど低いものに成り果ててしまうことにほかならない。ひとつの文明が「亡びる」ように、言葉が「亡びる」ということにほかならない。(P.150)

 気温が30℃近くの関東地方で真夏日の連続が途絶えたとは言え、蒸し暑い。ソファベットでこの雑誌を午前中から読み始めた。途中遅いブランチを摂り、また、横になって読み続けたのだが、ブランチにビール缶を付けたのがいけなかった。何行目か読んでいると眠くなっていつの間にか雑誌が落ちているのだ。拾い上げてまた、捲る。あっ、パリの講演の話だった―。
Une littérature majeure―主要な文学の話、パリでの話は第2章。 

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