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超人の面白読書 41 オルハン・パムク著和久井路子訳『父のトランク』

Img023_4たまたまだったのかも知れないが、筆者は関西出張中に3件目の書店でようやくこの本を手に入れた。本来なら著者がいたときのシンポジウムの会場で買っておくべきだったのだが。
 この本『父のトランク』はストックホルムのノーベル賞受賞講演を含む、オクラホマ、フランクフルトでの講演とノーベル受賞式直前のインタビューそれに2004年11月の来日特別対談からなる188ページの小品である。ここにはこの作家の内側が語られていて興味をそそられる。そっと何かを開けた感じ−。誰でもこういった類の話は一つや二つ持ち合わせていると思うのだが、できればトルコでの講演も収めてほしかった。やはり本国での反応も聞きたい・・・。
祖父は鉄道関係で富をなし、父や叔父もエンジニアとイスタンブールの比較的裕福な家庭で育った著者は、最初建築家・画家をめざすが22歳で断念、一念発起して作家を志す。その7年後自伝的色彩の濃い『ジェヴデット氏と息子たち』で作家デビューを果たすのである。トルストイ、ドフトエフスキー、トーマス・マン、プルースト、マルケス、フォークナー、ナボコフ、カルヴィーノ、ヘミングウェイなど西欧的教養を身につけ、年に一度はニューヨークのコロンビア大学で講義する宗教色は弱いが政治的発言を鋭く持つコスモポリタンだ。
この本の最後で色について聞かれているが、色はシンボル、象徴ではなくてテクスチャー、風合い、織りに何かを加味するものだと言って最初の『白い城』や『黒い本』は偶然つけたタイトルらしいが、あまりに色のことを言われるので三番目には意地で『わたしの名は紅』と付けたとか。そして随筆集のタイトルは『他の色』。このノーベル賞作家は絵画的志向の持主なのかもしれない。ところどころに“針で井戸を掘る”、“作家であることは、人間の中に隠された第二の人格を、その人間を作る世界を、忍耐強く、何年もかかって、発見することです”、“マラルメの「この世の全ては一冊の本の中に入るために存在する」ということばは、わたしによれば最後まで真実です”、“作家であることは他人の痛みがわかること、想像力を働かせることです”など傾聴に値する言葉が散りばめられている。小品が光るところだ。
オルハン・パムク著和久井路子訳『父のトランク』は藤原書店 2007年刊。定価1800円+税。

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