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超人の面白読書 37 雑誌『図書』3月号を読む

  京都は昨夜雪が舞っていた。そんな折書店で小雑誌を見つけて拾い読みをした。「図書」創刊の頃のコラム第二弾は1940年3月号に掲載された作家島崎藤村、その一文が目に入った。

 雪のおもしろさは、一切の光景を変えて見せるものでありながら、それが何処ともなく消え去って行くところにある。その跡には土の肌も顕われ、大地にほほえみ、人にも草木も共に活き返るような心地を起こさせる。
約70年前の文章である。雪をめぐる感受力を想ったのだ。

  図書3月号には先日読み終えた『翻訳の仕事』の執筆者が書き手に並ぶ。リービ英雄、野谷文昭、越川芳明、柳瀬尚紀などだ。読む人・書く人・作る人の巻頭コラムの高山宏の「百学連環」の話も面白い。曰く、普通ふたつ違うと感じるところ、ふたつ同じと見る感覚をコンシート、コンチェッティスモと美学では呼ぶ。これを種村季弘は「奇想異風」の訳語にした話は有名な伝説だと書く。その種村訳のひとつに百学連環という訳語があるが、実は西周の発明の訳語だったという話。これは著者が印刷博物館の「百学連環」なる展覧会を見て知ったらしい。

  そしてこの号で最も興味深かったのはG・ガルシア=マルケス著田澤耕訳『辞書を「書いた」女性』というコラムだ。訳者注によれば、大学院の授業準備をしているときに資料の中から出てきて25年も経っているが、興味深いので訳出したとある。このガルシア=マルケスの小文はスペインのマリア・モリネールという婦人を尋ねようと思って電話したがすでに亡くなっていたことから始まるが、まるで自分のために働いてくれた人を亡くした気持ちと綴る。マリア・モリネールは「スペイン語実用辞典」を一人で編んだ。合計3000ページに及び、重さは3トンもある全2巻の辞書。図書館の司書の仕事を終えた後彼女は自宅でカードを取り続けた。新聞に出てくる生きた言葉を載せ用例もつけた、いわばスペイン語活用辞典だ。1951年から執筆し1967年に完成、学者である夫や建築家の子息が語る彼女の辞書つくりにかける姿勢とその過程の面白いこと、やはり世の中にはこういう人もいるのだ。だからと言ってスペインの王立言語アカデミー会員にはならず、「靴下にツギを当てることしかしてこなかったのに」と謙遜がる。もちろんその辞書は当時一万部以上の売れ行きを示して好評だった。こうも愛情たっぷり書くガルシア=マルケスの気持ちも分かる。そして辞書学専門の訳者の訳出した動機も−。筆者は勝俣何某著の「英語活用辞典」なる辞書を持っているが、まだまだ活用し切れていないのが残念。

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